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評論・エッセイ

ある種の恋人は現場に戻って回想する

 パトリス・ルコント監督は、好みのものをじっと見つめて観察するのが好きな人だ、と僕は思う。自分の好みのものをいつまでも自分のものとしていたいから、彼はそうする。見つめ観察する対象がたとえば彼女というひとりの女性なら、彼女が持っている自分好みの体つきや顔立ち、なにげない身のこなし、ふとした視線の動きなどだけではなく、そのときその場に彼女および自分を中心にして漂う雰囲気、空気の動き、香りなど、そのときそこに流れる時間のすべてを、そのまま自分のものとしていつまでもとどめておきたい、と彼は願う。そのような願望はペシミズムから生まれるものであり…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年

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