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評論・エッセイ

くっきりとした輪郭としての寒い季節

 今年の冬は寒い、という予報はどうやらはずれたようだ。冬の寒さ、というものを僕は期待していたのだが。たとえばこの正月は、まるで寒くなかった。寒い、と思った日が、この冬はまだ一度もない。この冬、というような言いかたが、すでになかば死語のように感じられる最近の冬の温かさを僕は残念に思っている。
 これを書いているいまは、1月の20日だ。昔のほうが良かった、と言う趣味は僕にはないが、気候を中心にした自然条件は、昔のほうが圧倒的に良かったのではないだろうか。
 僕が10歳の頃の1月20日に吸っていた空気というものは…

底本:『昼月の幸福──エッセイ41篇に写真を添えて』晶文社 1995年

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