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評論・エッセイ

ハワイのいなり寿司

 ハワイの田舎町の、ひなびた感じのスーパー・マーケットのはじっこ。「オカズ屋」という店でたわむれに買って食べたいなり寿司は、大げさに言うと、百年まえの日本の味がした。百年まえの日本をぼくが知るわけないのだが、ハワイの一角にずっといまでも残りつづけている日本の明治時代が、そのいなり寿司の味にはあった、とぼくは感じた。
 当地では、いなり寿司のことを「ライス・コーン」(米を円錐形に握りかためたもの)と、呼んでいる。田舎のおばあさんや親戚の人たちが、子供のぼくに食べさせてくれたいなり寿司と、まったくおなじだった。それはおじいさ…

底本:『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年

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