田園の退屈
一九五三年の初旬。その年の夏はすでに終わっていた。しかし人々は夏の服のままだった。窓ぎわの席にすわった僕も半袖のシャツを着ていた。岩国から呉へ引っ越したときには、家財道具を積んだトラックに家族が便乗したが、呉から東京までの距離だと、トラックに便乗するわけにもいかない。だから汽車になった。見送りを受けたはずだが、僕の記憶はさだかではない。
呉から次の日の東京まで、窓の外に連続したのは、わかりやすく一語で言うなら、田園の景色だった。呉から東京まで、当時の日本は、びっしりと田園がつ…
『ひらく』9 二〇二三年六月三十日