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評論・エッセイ

先見日記 階段にいる猫

 自宅からいつもの私鉄の駅まで、普通に歩いて2分か4分だ。そしてこの短い時間の大部分が階段だ。高台から下へと降りていく高低差はかなりある。だから階段は長い。この階段の途中に猫がいる。階段のちょうどまんなかあたりの家に飼われている猫だ。気が向けば自由に外を行き来している。階段の緑のスロープを歩いていたり、前足をきちんと揃えてすわっていたり、夏の暑いときには風のとおり道に長々と横たわっていたりする。
 いつもこの階段をとおる人たちから、この猫は愛されている。しゃがみ込んで猫におおいかぶさるかのようにして、普段は絶対に使わない声…

『先見日記』二〇〇五年三月八日

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