先見日記 窓口にいる男
窓口、という言葉はいまも現役だが、その現役ぶりには多少の注釈が必要だ。窓口という機能は日常生活の場のあちこちにあるけれど、昔の標準的な窓口の構造は、かなり特殊なところ以外では、もう見かけることはない。昔の標準的な窓口の構造とは、たとえば戦後の日本が55年体制へと向かいつつあった、そして僕が子供だった頃、戦前や戦中をまだそのまま引きずっていた巷の、郵便局や役場、銀行など、窓口のあるすべての場所で、人々が日常的に接していた窓口だ。
妙に丈の高い、そして奥行きの狭いカウンターに対して、木製の細かい格子による仕切りが端から端…
『先見日記』二〇〇三年二月四日
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