ロンサム・ジョッキー 最終回 今となっては懐かしい夏の音
トリップ・カウンター・ブルース
その日はものすごく暑かったそうだ。夜は寝苦しい熱帯夜だったという。あとで知ったことだ。
ぼくは、山のなかにいた。
渓流のそばに、愛するオートバイとふたりだけでいた。
本格的にはじまった夏のまっ盛りであることはたしかなのだが、素晴らしい涼しさだけをいまぼくは記憶している。
そして、音を立て流れる清らかな水の冷たさだけを。
まるでカウボーイのように岸辺の草に腹ばいになったぼくは、上半身を渓流のうえに乗りださせた…
『ミスター・バイク』一九七八年十月号