片岡義男さんとは、よくタリーズで待ち合わせた。私鉄の駅から程近い場所にある店舗だ。片岡さんが指定するタリーズはいつもたいへんな繁盛ぶりで、二人掛けの席を確保するのが容易ではなかった。だから僕は大抵の場合、待ち合わせ時刻の三十分前には店に入り、「本日のコーヒー」のショートサイズを注文して、二人掛けの席が空いていない場合は、一人掛けの席に座り、二人組の客たちに視線を配り、彼らのなかでひと組が席を立つと、慌てふためいてその席へと移動した。傍目から見たら、さもしい行為のように見えるだろうが、
「いや、あと一人来るんです。僕一人だ…