今日は口数がおおい(その10)|8月は10冊をお届けします

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片岡義男さん自身が自分の小説のデビュー作としている「白い波の荒野へ」(初出は「野性時代」1974年5月号)からはじめて2000年にいたるまで。発表された小説を順番に並べてみる試みは8月25日発売の10冊で一応の完了です。

10冊のうち、長編が3つあります。「道順は彼女に訊く」「東京青年」「ラハイナまで来た理由」、いずれも読みでがあります。

403_OR道順は彼女に訊く」は謎に満ちたストーリーです。ある日突然いなくなってしまった女性をめぐる人々が、フリー・ライターの男性の取材を通してあらたな関係を築いていきます。なぜ彼女はいなくなったのか、その謎に導かれて読み終えると、短いけれども理詰めの「あとがき」があり、そこにはこのストーリーの核心がはっきりと書かれています。

 

 

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東京青年」はタイトルどおり、東京に生きる青年たちのストーリーです。1950年代の東京でふたりの青年が高校生から二十代のはじめにかけて、年上の女性たちと出会い、ともに過ごしつつ自分の道をみつけていきます。登場人物たちにはちゃんとした姓名が与えられているのですが、ただ一人、ヨシオというだけの青年が登場します。冒頭にはこんな会話があって思わず笑いました。

 

「僕はヨシオと言います」
 と、彼は言った。
「ヨシオさん?」
「そうです」
「ヨシオさんという苗字なの?」
「いいえ。名前です」
「なにヨシオさんと言うの?」
「苗字はどうでもいいですから、名前だけ覚えてください」
「どういう字を書くの?」
「片仮名でいいです」

小説でしか出来ない会話ですね。というわけで、ヨシオは最初から最後までヨシオであり、苗字はあかされません。ヨシオという名前から、彼は作者の分身かと思ってみたりするのですが、必ずしもそうとは言えないのです。実は「ドライ・マティーニが口をきく」にもヨシオが登場しますし、「生きかたを楽しむ」にもヨシオがいます。そして、この三人のヨシオにはあまり共通点はありません。なぜ、ヨシオ、なのでしょうか。いつか片岡さんに訊いてみなくてはなりません。

409_ORラハイナまで来た理由」は上のふたつの長編とは違い、28の短いストーリーが集まってひとつの小説世界をつくっています。その世界をまとめている主人公は「僕」という一人称ですが、だからといってこの「僕」が片岡さんだとは言えないのは、ヨシオの場合と同じです。片岡さんには「僕」という主人公による「ハワイ四部作」というのがあり、『ラハイナまで来た理由』は『波乗りの島』『時差のないふたつの島頬よせてホノルル』(タイトルはいずれも書籍のもの)に続く四つめの作品になります。

 

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412_OR「ラハイナまで来た理由」のなかには「カプリース・クラシック・クーペ」「エルヴィスで4ページ」「ホノルルで雑誌を作る」「ウルパラクアの赤」など、本や雑誌を作るアイディアがたくさんあって楽しいのです。そうしたアイディアが形になったのが「個人的な雑誌 1」「個人的な雑誌 2」だと思います。雑誌というタイトルがついていますし、小説とは一味違うものですが、いわば番外として、編集者としての片岡さんの腕前を楽しんでください。片岡さんと佐藤秀明さん撮影の写真をあらたに選んで収録しました

2000年までの小説は8月で完了ですと片岡さんに報告したところ、続きもやりましょう、との提案がすぐに返ってきました。ですから小説はもう少し続くことになりそうです。エッセイはいままでのようにしばらくは毎日公開していきますし、その他にも秋からの新しい企画が進んでいます。どうか楽しみにお待ちください。

   八巻美恵@編集部

2017年8月23日 00:00