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【特集】MLBは、観ても読んでも面白い!

【特集】MLBは、観ても読んでも面白い!

2024年10月24日 16:00

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 大谷翔平選手の歴史的な「54本塁打・59盗塁」達成や、サンディエゴ・パドレスのダルビッシュ有選手の活躍で日本でも大いに話題となった2024年のメジャー・リーグ。大谷選手の在籍するロサンゼルス・ドジャースはリーグチャンピオンシップシリーズでニューヨーク・メッツを撃破しワールドシリーズに進出。10月31日の第5戦でニューヨーク・ヤンキースとの戦いを4対1で制し、見事「世界一」となりました。


 野球は作家にとっても魅力的な題材のようで、日本でも学校の野球部からプロチームまで、さまざまな個人や団体を扱った小説があります。野球発祥の地でもあるアメリカでは、野球小説は1つのジャンルとして確立しており、リアルな小説からファンタジー、さらにノンフィクションまで含めれば膨大な作品が存在すると言われています。日本では映画化された『フィールド・オブ・ドリームス』(原作『シューレス・ジョー』)や『マネーボール』(原作『マネーボール 奇跡のチームをつくった男』)などがよく知られていますが、これ以外にも多くの作品があります。


 この特集では片岡義男がこれまでに書いてきた「メジャー・リーグ」に関する文学作品(小説、ノンフィクション)の書評を中心に集めてみました。ここで紹介されている本の中には邦訳されているものもありますので、メジャー・リーグについてより深く楽しみたい方や、これから詳しく知りたいと思われている方もぜひ読んでみてください。


1)『午後を過ごす最高の場所』

 そもそもアメリカ人にとって「ベースボール」とは何なのか。アメリカの歴史や精神面における野球の位置付けとは……? そんな疑問を持ったら、まずはこの本を読むことをお勧めします。女性写真家ダニエール・ワイルが撮影し、デイヴィッド・ハルバスタムとピーター・リッチモンドが文章を寄せたこの大判の写真集は、ゲームだけでなく野球のあらゆる光景を正確に、美しく端正に抽象化し、その核心をとらえています。ハルバスタムは「ベースボールにおいては、他のなににも増して、現在は単なる現在ではなく、それは同時に過去でもある」と書いています。
邦訳版『ベースボール この完璧なるもの』(1996)



2)『フオー・ラブ・オブ・ザ・ゲーム』

 マイケル・シャアーラ(1928〜1988)の遺作でもあるこの小説は、ケビン・コスナー主演の映画『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』(1999)の原作です。かつて『ロサンジェルス・タイムズ』に掲載された書評で「アーネスト・ヘミングウェイが野球をテーマに小説を書いたなら、こういう作品になったかもしれない」とも言われた短編ですが、そう言われると読みたくなるのが人の常。片岡義男も「たいていの文章には動じなくなっている僕だが、ザ・ネクスト・ピッチはどうなるのかと、夢中で読み進めた」と、その興奮を書き留めています。
『For Love of the Game』(1991)
映画『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』(For Love of the Game)予告編



3)『ザ・ルーキー』

 日本では『オールド・ルーキー』のタイトルで2002年に公開された映画の原作です。1999年に35歳という当時史上最年長でメジャー・リーグの入団テストを受けた投手、ジム・モリスの実話を元にした作品で、映画版ではデニス・クエイドがモリスの役を演じています。野球チームのメンバーとの友情や、マイナー・リーグ選手の過酷な日常、家族との関係などを織り込みながら語られる苦労話ですが、片岡義男は興味深く読んだと言います。ちなみに彼が最後に契約したのはドジャースでした。
『The Rookie』(2002)
映画『オールド・ルーキー』(The Rookie)予告編



4)『絵本をひらけ 第四回 アメリカらしさの日常を描いて秀逸』

 ボール・パークという名称は、日本ではエスコンフィールドHOKKAIDOのオープンで一般にも知られるようになりましたが、「野球の試合がない日でも楽しめる」という点で、これまでの「野球場」の概念とはかなり異なります。このエリシャ・クーパーの絵本『ボール・パーク』では、野球というひとつの目的のために多くの人たちが関係していることを描いた絵本です。水彩による絵は何度見ても飽きることなく、忘れがたい爽快感があるといいます。
Elisha Cooper『Ballpark』



5)『球場の書店に寄る 2「この上なく純粋な背景」』

 メジャー・リーグについて英語で書かれた数多くの本の中でも、ダニエル・オクレントの『9回まで』(1985/原題『9 INNINGS』)は、群を抜いた傑作という評価を受けています。1982年6月10日、ミルウォーキー・カウンティ・ステイディアムで行われた、ミルウォーキー・ブリューワーズとボルティモア・オリオールズのデイ・ゲームを、その始まりから最後まで回を追って、プレイ・バイ・プレイで描き出した作品です。そこに描かれる無数のディテール描写の積み重ねには、誰もがきっと唸らされることでしょう。
『Nine Innings: The Anatomy of a Baseball Game』



6)『球場の書店に寄る 3「ナショナル・パスタイム」』

「ナショナル・パスタイム」は「国民的娯楽」と訳されますが、この娯楽は多くの場合、野球を指します。アメリカの国民的娯楽である野球を題材に、ワシントン・ポスト紙のスポーツ・コラムニスト、トーマス・ボスウェルの連載コラムをまとめたのが『人生は如何にワールド・シリーズに似ていくか』(1982)です。この本について片岡は「これを読まないままというありかたそのものが、野球というものに対して、決定的に背く態度となるのではないか」「すぐれた書き手が良き題材を相手に、本領を発揮した文章を読む幸せを、ひとりの読者である僕は痛感する」と絶賛しています。
『How Life Imitates the World Series』



7)『球場の書店に寄る 4 ディマジオと1941年の夏』

 マイケル・シーデルの『ストリーク ジョー・ディマジオと1941年の夏』(1988)は、「アメリカ、そしてその野球に興味のある人にとっては必読を越えた必須の一冊だ」と片岡義男は言います。1941年5月15日から7月16日までの2ヶ月間、ヤンキーズは56試合をこなし、4番打者ジョー・ディマジオは全試合で安打を放ちました。1941年の夏といえば、アメリカにとっては一大転換点となった時期とも重なり、この年の12月には日本による真珠湾攻撃を受けます。本書ではディマジオの56試合安打を時間順に追いながら、この時期のアメリカ全体を記念叙述のように物語っていきます。
『Streak: Joe DiMaggio and the Summer of '41』



8)『球場の書店に寄る 8 1964年──メジャー・リーグの分水嶺』

 ピューリッツァー賞受賞のジャーナリスト、デイヴィッド・ハルバスタムは『男たちの大リーグ』(1989年)で、ジョー・ディマジオを擁するニューヨーク・ヤンキースと、テッド・ウィリアムスを擁するボストン・レッドソックスの1949年の伝説的な熱闘を描いています。そして、その後のヤンキースの後日談を描いたのが、この『さらばヤンキーズ』(原題:『October 1964』)です。1964年のワールド・シリーズ、ヤンキーズ対カーディナルズ戦は、当時のアメリカという国の変化を象徴するひとつの出来事であり、メジャー・リーグもこれを契機として大きく変わっていくのですが、その変化を俯瞰的な立ち位置から体験し直すことができます。
邦訳版『さらばヤンキース 運命のワールドシリーズ』(上)
邦訳版『さらばヤンキース 運命のワールドシリーズ』(下)



9)『球場の書店に寄る 最終回 金銭とその支配をめぐる領域』

 1995年にジャーナリストのジョン・ヘリヤーによって書かれた『Lords of the Realm : TheReal History of Baseball(その王国の首長たち)』。この本は、アメリカのベースボールの世界の、お金とその支配をめぐる世界を主題としたノン・フィクションです。野球の試合でのルール自体は単純で明快ですが、それはあくまでも観客側の話。野球はチームプレイでありながら、選手ひとりひとりの技量が試合を大きく左右すると同時に、その裏では巨額の金銭とその世界の支配をめぐる策略があります。残念ながら邦訳は出ていないようですが、アメリカ野球のビジネスとしての側面にご興味のある方はぜひどうぞ。
『Lords of the Realm:TheReal History of Baseball』