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片岡義男が語る 絵本の世界

片岡義男が語る 絵本の世界

2025年10月21日 00:00

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 戦中から戦後間もない時期に幼少期を過ごした作家・片岡義男。日系二世の父親を持つ彼の周囲には、幼少期からおとぎ話や童話、マザー・グース、童謡集、アルファベットブック(アルファベットの文字や単語を絵と簡単な言葉で紹介する絵本)など数多くの英語の絵本があったといいます。片岡はこれらの絵本と「きわめて相性よくなじみ」「僕というひとりの人の、僕らしさの基本を、5、6歳頃までには作ってしまうことに関して、重要な役割を果たした」と明言しています。こうした絵本への関心は、少年期になり文字を中心としたペーパーバックや雑誌などへの関心へと繋がっていき、やがて作家としての片岡義男が形成されていきます。

 一方、「芸術作品としての絵本」への片岡の興味はその後も尽きることがなく、自身のお気に入りの絵本を『絵本についての、僕の本』(1993)や、『ここは猫の国』(1997)といった作品で自ら撮った写真と共に紹介しています。

 今回は前述の2作品をはじめ、片岡義男が絵本について書いたエッセイをご紹介します。ここで紹介されている絵本はエッセイ執筆当時はすべて英語などの外国語版のみでしたが、その後日本語に翻訳され出版されているものもあります。お気に入りの本があったら、ぜひ書店や図書館などで探してみてください。読書の秋、あなたの読書リストにこれらの絵本も加えてみてはいかがでしょうか。

1)「『絵本についての、僕の本』 まえがき」

 絵本に描かれた世界は、その多くが現実にはない世界です。その世界は読んだ人が自分の頭の中に構築した世界であり、その頭の中の世界を作るのに必要なのは想像力です。子供は本能的にその想像力を必死に育てますが、この必死さを失ってしまったのが大人である、と片岡義男は定義します。でも、大人でも絵本を楽しめる人はどこかに子供の自分が残っているはずです。

(『絵本についての、僕の本』研究社出版(現:研究社) 1993年)

2)「リトル・ゴールデン・ブックスを開くと子供の頃のぼくがいる」

 リトル・ゴールデン・ブックスは、1942年にアメリカで創刊された、金色の背表紙が特徴の児童書のシリーズです。古典的な童話からオリジナルの物語、ディズニーの人気キャラクターを使った作品や幼児向けの辞書まで多彩な作品が現在も出版され続けています。この本に描かれたファンタジーの世界と現実の世界とは対等に釣り合っており、その境界が曖昧な世界を楽しめるという時期が幼児の頃の自分にはあったのだろう、と片岡は述懐します。

(『ターザンが教えてくれた』角川文庫 1982年所収(オリジナルタイトル「ベッド・タイムの物語」)

3)「絵本、というかたちのなかで」

 現在では絵本が単なる「子供だまし」ではなく、大人も楽しめる芸術形式であるという認識は広く浸透していますが、このエッセイで紹介されるのはそのような「子供用とは言いがたい出来ばえ」で「極めて自由で魅力的な芸術作品」とも呼ぶべき種類の絵本です。大きさやページ数も自由で秀逸なデザインは、オリジナルの物語を引き立てるだけでなく、すでによく知られた物語をも新たに生まれ変わらせ、読む人の世界を広げてくれることでしょう。ページをめくって絵本の写真を見るだけでも楽しい1篇です。

(『絵本についての、僕の本』[第六章]研究社出版 1993年所収)

※『絵本についての、僕の本』の[まえがき]から[第5章]まではこちらからお読みいただけます。

4)「絵本と新幹線と夜の時間」

 外国の絵本を入手できるのは東京の洋書店やネットばかりではありません。旅先でふらりと入った書店で魅力的な本に出会うこともあります。ある日、必要性に迫られてどうしても本を読む必要が生じた片岡は、その場所と時間を作るために新幹線で西へ向かいます。京都で人との会食をすませ、ホテルでゆっくりと本を読んだ次の日、買い物のために立ち寄った神戸の書店で素晴らしい出来栄えの外国の絵本に出会い購入します。その本を読み終え、考えたこととは……。

(片岡義男エッセイ・コレクション『自分を語るアメリカ』太田出版 1995年所収)

5)「ここは猫の国」

 片岡義男が買い集め、自身が撮影した写真で紹介する、世界中の猫の絵本のガイドブック。描かれている猫の魅力はもちろん、その造本や編集、装丁などにも言及し「絵本」という存在自体を楽しむガイドにもなっています。猫好きでなくとも思わず欲しくなること請け合いです。また、あとがきには、やなせたかしさんが編集長を務めていた雑誌『いちごえほん』に寄稿した子供向けの短編小説「ねこが今夜もねむる」が再掲されています。

(『ここは猫の国』研究社出版 1997年)

6)シリーズ「絵本をひらけ」(全12回)

 雑誌に連載された、外国の絵本を紹介するシリーズです。絵本は総合芸術であり、1冊の絵本が生まれるまでには作り手の創意工夫、独創性、芸術性など、必要なものすべてが総動員されています。しかも読者は子供であるため、絵本の中には必ず社会性や公共性が付加されます。そしてほどよくデフォルメされた絵は、具象と同時に抽象をも、子供の心のなかへ注ぎ込みます。幼い子供向けの『リトル・ゴールデン・ブックス』から、大人も思わず唸ってしまう見事なポップアップ(飛び出す)絵本、「学級図書」と呼ばれる絵本まで、片岡義男おすすめの絵本を写真と共にお楽しみください。

(『Free&Easy』2009年7月号〜2010年6月号まで連載)