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評論・エッセイ

この演奏がいまも聴こえる 自分はまだいなかった時代への郷愁

 ヴェラ・リンという芸名は、見た目も音も、すっきりと美しい。基本的には清楚だが、ほどよい華やぎがある。容貌は写真にあるとおりだ。美貌と言っていいだろう。二十一、二歳の頃ではないか。きわめて中立的な美貌であり、謎めいた影や、そのような影とかならずや隣り合わせにあるはずの色気とは、無縁のような雰囲気だ。
 歌声はきわめて率直だ。余計な技巧などいっさいなしに、メロディをきれいにまっすぐに歌う。そこはかとなく儚げな余韻はいっさいの癖を持たず、哀調に接する寸前で、明るいままにとどまる。もの悲しさへと踏み込まなくてはいけない歌では、哀…

『At Once』07 JTBパブリッシング 二〇〇九年三月

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