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評論・エッセイ

天麩羅蕎麦はこうして生まれた

 江戸には浮遊人口が多かった。江戸以外のところから江戸に向けて、数多くの人たちが流入していたからだ。住居など持たず、厳密には宿なしの、着のみ着のまま、定職すらなしに、彼らは江戸の八百八町を浮遊していた。江戸に暮らすこうした人たちの一日の食事の、少なく見て半分、多く見ればほとんどを、屋台が受け持っていたという。
 江戸には食べ物の屋台がたくさんあった。いつでもどこでも食べることができるから、小腹が空いたら屋台でちょっとなにかつまんで腹に入れる、という食生活は江戸の人たちのあいだに定着していた。女性たちは屋台の脇にしゃがんで食…

初出:『酒林』二〇〇六年一月
底本:『ピーナツ・バターで始める朝』東京書籍 二〇〇九年

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