彼女は彼を愛していた
彼女は彼を愛していた。彼も、彼女を愛していた。ふたりの関係は、とても素晴らしいものだった。このままいつまでもつづけばいいと、ふたりとも思っていた。
だが、丸二年つづいて三年目に入ってすぐに、ふたりは別れなくてはいけないことになった。
ふたりの関係は、ほんとうに素晴らしいものだったが、未来にむかって発展的に拡大していけるような関係ではなかった。未来などなにもあてにできないし約束もできない関係だったのだ。いまのこの関係という枠組みの内部だけで完璧に自己完結してしまって、それ以上にはどう考えたって広がってい…
底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年
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