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評論・エッセイ

いかなる理由でナポリタンなのか

 スパゲッティ、と片仮名で書いた一語がころんと目の前にある状態は、かなりのところまで不思議だ。目にした一瞬、読めはするけれど、それがなにを意味するのか、わからない。いつもの駅なかや駅そばの、あの店この店で食べる、お待たせしましたとテーブルに運ばれてくる、ボンゴレやカルボナーラなどの、ひとまずは出来上がった料理の具体例が、スパゲッティという一語を見たり聞いたりするその瞬間に頭のなかに浮かぶようなら、スパゲッティという言葉はその人にとってもはや自分と分かちがたく緊密に一体化した、母国語としての日本語そのものだ。
 いつもいく…

底本:『ナポリへの道』東京書籍 2008年

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