パリから一通の封書が届いた
もう何年もまえに東京からニューヨークへいってしまい、いまでは主としてニューヨークとパリで忙しく仕事をしているひとりの女性がいる。彼女はぼくよりも年上であり、ぼくは彼女にとって、あまり出来のよくない弟のような存在だ。彼女が東京にいるときには、ぼくは彼女にいろんな心配をかけたし、彼女は親切にも、本当の姉のように、ぼくの面倒をさまざまに見てくれた。
一年に一度くらいなら会うことも出来るし、手紙のやりとりも可能だ。遠く離れている、という感覚はおたがいにないけれど、忘れているときにふと手紙が届いたりすると、急激に懐かしい思いに…
底本:片岡義男エッセイ・コレクション『「彼女」はグッド・デザイン』太田出版 1996年
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