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評論・エッセイ

自分のことをワシと呼んだか

 四歳から十二歳までを、僕は瀬戸内で過ごした。山口県の岩国と、広島県の呉というところに、ほぼ四年ずつ。どちらの地方の言葉も、自分は地元の人たちとおなじように使えたし使っていたはずだと、長いあいだ僕は思ってきた。
 岩国の言葉や呉の言葉を使っている自分に関する記憶は、とっくにない。そのような記憶はもう消えている。言葉を喋る行為は毎日かならずあったはずだが、その地方を離れて三十年四十年と時間が経過すると、山口や広島の言葉を喋っていた自分についての記憶が消えていくのに反比例して、自分はどちらの地方の言葉も地元の人たちとまったく…

底本:『坊やはこうして作家になる』水魚書房 2000年

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