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評論・エッセイ

作家の口福 ベートーヴェンのコーヒー豆

 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンはコーヒーを愛好した。コーヒーを淹れて飲むときには、コーヒーの豆、正確には実を、ひとつふたつと数えて12粒、グラインダーで粉に挽き、熱い湯でごく小さなカップにほんのふた口ほどのコーヒーを作り、それを飲んだという。
 十数年前にどこかで読んで知ったことだ。そうか、12粒か、と僕は思った。感銘を覚えた、と言ってもいい。コーヒーを淹れるたびに、12粒。感銘がなぜ感銘のままにとどまっていたのか、そこが不思議だ。12粒にそれほど感心するなら、自分でも12粒でコーヒーを淹れてみたらどうかと、つい…

『朝日新聞』二〇一三年三月九日

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