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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

そしてその他の物語 第6回

 待ち合わせの場所であるそのバーに、作家の水谷は約束の時間ちょうどにあらわれた。親友の写真家である日比野はすでに来ていた。カウンターだけの店だ。角をきっちり立てずに、そして谷も深く切り込ませることをせず、どの部分もたおやかに丸みを帯びて、カウンターはアルファベットの大文字のMになっている。そのようなMの外側に、低くストゥールがならんでいた。水谷はMの字のいっぽうの端にいた。彼のいる場所とは反対側に、客はひと組だけ、女性の三人連れがいた。水谷は日比野の右隣にすわった。
「このあたりは魅力的な路地の重なり合いだね。東京にいま…

『Free & Easy』二〇一〇年十二月号

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