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わたしの片岡義男 No.16高橋美礼「あの頃の表紙と、私が手がけた電子書籍の表紙。」

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高橋美礼(たかはし・みれい)さんはフリーランスデザイナー。片岡義男全著作電子化計画の表紙デザインを担当。他の代表作に、「Tsun Tsun」(http://h-concept.jp/fs/hshop/c/tsuntsun)や「物語が聞こえる:世田谷美術館ボランティア・鑑賞リーダー10周年記念誌」などがあります。
できるだけ統一感なく、ナンバリングのみ。

 子どもの頃から、私の実家の本棚には片岡義男小説が並んでいた。『ロンサム・カウボーイ』や『10セントの意識革命』は晶文社の犀のマーク、『彼のオートバイ、彼女の島』や『幸せは白いTシャツ』は角川文庫の真っ赤な背表紙。床に寝転んだ姿勢で見上げたり、本棚の前を通り過ぎるとき指先でなぞったりしながら、いつの間にか小説のタイトルと表紙のビジュアルだけが先にインプットされていたのだと思う。実際に小説を読み始めるよりも前から、小説世界のイメージは勝手に頭の中でふくらんだ。後に、その想像は大きくはずれていないと気づいてからはさらに、記憶の中のビジュアルが鮮明になっていた。

 片岡義男全小説作品をデジタル書籍化するので新しい表紙をデザインできないか、と言われたとき、まっさきに思い浮かべたのが、その頃見ていた表紙たちだった。あまりに印象的で、表紙だけ現代的なものに差し替えるなんてことができるのだろうかとためらったくらいだ。

 でも。電子書籍の表紙は、紙の書籍に不可欠な装丁というデザインワークから生まれるものとは全然ちがう。1作品ごとに用紙を選んだりカバーと帯のバランスを考えたりといった細やかな書物設計には到底かなわないけれど、デジタル画面上でどれだけ見やすいかが問われる。「こっちは電子本だよ」とわかってもらうための、デジタルデータ用ボタン的役割になるかもしれない。

『白い波の荒野へ』表紙
『白い波の荒野へ』
高橋さんが最初に手掛けた表紙

 新しい表紙をシリーズ化せず、あえてバラバラにしたのは、片岡さんの希望でもある。共通しているのは、通しナンバーを入れること。それもなるべく定型にせず、たとえば写真を使った表紙なら、車のナンバープレートや道路標識の一部分に潜ませてみたりした。

 片岡作品のタイトルは、映画や音楽にまつわる言葉が多く登場する。タイトルがストーリーに合致している必然性はないのと同じように、表紙がそのまま小説世界を表していなくてもいい。むしろ、独立した世界になっていても構わない、ということになってから表紙のデザインはもっと自由になった気がする。

 現在までの刊行は420作品。片岡さんの文章をすべて電子書籍化するとしたら、あと何作品くらいあるのだろう? 全く同じタイトルがつけられない限り、全く同じ表紙ビジュアルも生まれない。こうなったら、できるだけ統一感がないように見せてみたい。

フリーランスデザイナー 高橋美礼

今回の一冊 電子版『彼らと愉快に過ごす 〜僕の好きな道具について〜』(2018年)

本の表紙をデザインをするのにも、色々な道具が必要だ。今回は、片岡さんが愛用する道具の本をご紹介。

『彼らと愉快に過ごす 〜僕の好きな道具について〜』表紙

片岡義男が愛用する
「モノ」たちの108個

モノの使い方、所有の仕方でを通じて明らかにされる
片岡義男という人の生き方。
「モノ」の中に「日本」が入り込む余地はほとんどない。

 

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2018年5月1日 00:00

わたしの片岡義男

不定期更新。作家、ライター、編集者……さまざまな立場から片岡作品への思いを語っていただきました。読んだことのある作品でも違った面が見えてくるかもしれません。