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わたしの片岡義男 No.10山崎まどか「片岡義男を発見した日」

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山崎まどか(やまさき・まどか)さんは、ライター、翻訳家、コラムニスト。少女文化やアメリカの学園文化に造詣が深く、著書に『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)、『「自分」整理術』(講談社)、『ヤング・アダルトU.S.A.』(共著 DUブックス)、翻訳書に『愛を返品した男』(早川書房)などがあります。
『少女時代』に耽溺する

私が片岡義男を発見したのは、2005年8月10日のことだ。

何故、そんな風に日付まで覚えているのか。

それはブログに片岡義男の『少女時代』について熱っぽく語っているエントリーが残っていて、その日付が2005年8月11日になっているからだ。

私は駅のコンコースに出ている文庫本を中心とした小さな古本市で、双葉文庫のえんじ色の背表紙を見つけ、タイトルに惹かれてこの本を購入した。地下鉄で冒頭だけを読むつもりがすっかり夢中になり、小田急線に乗り換えてもページから目が離せなかった。その頃に住んでいた祖師ケ谷大蔵の駅を通り過ぎ、更に成城学園前を越えて、喜多見の駅でようやく自分が降りる駅を乗り過ごしたことに気がついた。ガラス張りの待合室で折り返しの電車を待つ間も、私はずっと本の世界に耽溺していた。

興奮の余韻も冷めやらぬままその晩に感想をブログに書いたはずだが、もしかして記憶違いかもしれないし、深夜にアップしたせいで読んだ日とブログの日付がずれているかもしれない。そう思って、2005年の映画の鑑賞記録を調べてみた。地下鉄の駅で古本を物色していたということは、試写室帰りだった可能性が高い。記録を見てみると、8月10日は銀座にある東宝の試写室で『NANA』を見ている。その前日はUIPの試写室でリチャード・リンクレーターが監督した『がんばれ!ベアーズ ニュー・シーズン』とジョージ・A・ロメロが二十年ぶりに撮ったゾンビ映画の『ランド・オブ・ザ・デッド』を二本連続で見ていた。UIPの試写室は東銀座のビルにあった。今はもうない。東銀座の駅に古本市をやるようなスペースはないはずだ。あの頃は新橋の駅によくこういう古本コーナーがあったが、『少女時代』を買ったのは新橋ではなかったという記憶がある。つまり、私は銀座の地下街の古本市でこの本を買ったのだ。

8月8日に『ファンタスティック・フォー』を見た20世紀フォックスの試写室は六本木にある。ということは、その日は外苑東通りを10分ほど歩いて乃木坂の駅に出て千代田線に乗り、代々木上原で小田急に乗り換えたということになる。この日に『少女時代』を買うのは不可能だ。

私は8月10日に片岡義男の『少女時代』を銀座の駅で見つけて購入し、丸ノ内線に乗って新宿に出て、小田急線に乗り換えた。その間、ずっと『少女時代』を読んでいた。その日から片岡義男の旧作を買い、新作を追いかけ、ふと気がつくと原稿を執筆中、片岡義男ならこれについてどう書くだろうと考えている。

ライター/翻訳家 山崎まどか

今回の一冊 電子版『たしかに一度だけ咲いた』(1990年)

 今回の山崎まどかさん紹介の短篇集『少女時代』から、冒頭の『たしかに一度だけ咲いた』をピックアップ!

『たしかに一度だけ咲いた』表紙

夢を見る力が強い4人の少女
14歳の彼女たちは自殺願望で結束

陳腐な、つまらない死ではなく
いかに美しく、そして早死にできるか
4人は望ましい死に方のイメージを作る
物語を生きることと、現実を死ぬこと

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2018年3月20日 00:00

わたしの片岡義男

不定期更新。作家、ライター、編集者……さまざまな立場から片岡作品への思いを語っていただきました。読んだことのある作品でも違った面が見えてくるかもしれません。