アイキャッチ画像

番外編 「30年、僕が見てきたアメリカ」

LinkedIn にシェア
LINEで送る
Pocket

 写真家・佐藤秀明さんに自身の作品について語っていただく「写真ものがたり」。今回は番外編「30年、僕が見てきたアメリカ」と題して、12月14日に行われた写真展ギャラリートークの模様をお伝えします。
 このトークイベントは、会場のリコーイメージングスクエア大阪さま、そして当日ご来場いただいた皆さまのご協力無しには成し得ませんでした。この場を借りて皆さまに御礼申し上げます。

 淋しくも懐かしいアメリカを、一人のロンサムカウボーイとして巡ったものがたり。あの写真の裏話や、片岡さんとの思い出エピソードなど盛りだくさんです。これを読めば写真集をより楽しめること請け合いですよ!

the Lonliest Road ルート50

 僕はこれまでに二十数回渡米していろんな写真を撮ってきたんです。けれども、あまりにもたくさんあるので捨てようかなと思っていたところを、片岡義男さんの『ロンサム・カウボーイ』という本を読んで思い出が蘇りまして。写真を見返してみると、ずいぶん懐かしい写真がたくさんあったんです。 ここに展示されているのは、そういった、僕にとってどこか懐かしいアメリカを収めた写真なんです。

 この写真はアメリカのルート50。東海岸のメリーランドから西海岸のサクラメントまで通じているすごく長い国道なんです。30年前はこんな道を車で走っていると、ラジオからはカントリーばっかり聞こえてきたものだけど、今はロックばっかりだね。印象もまるで違うんです、ロック聞きながら走る道とカントリー聞きながら走る道って。

 ルート66よりも古くからある道で、ゴールドラッシュの時には砂金を求める人々が大勢ここを通ってネバダへ向かったんです。そして、大半は金を発見できずにおなじようにこの道から去っていく。そういう少し寂しい歴史のある道です。

 でも、なかにはこういう荒涼とした土地に愛着を持って住み続けた人もいるんです。そういう人達が作った町がルート50沿いに点々とあるんです。この写真もそういった町の一つ。ゴールドフィールドという小さな町で、 去年この写真を撮った時には人口40人ぐらいしかいませんでした。 住んでいるのは、金を諦めきれずにしつこく掘り続けている人や、郊外の牧場で働いているカウボーイばかりです。

 昼間、町を歩いていてもほとんど誰とも出くわさないんですが、不思議と酒場だけは活気があるんですよ。ここのバーテンはおっかないおばあさんでした。間違ってもスコッチなんて注文しちゃいけませんよ。バーボンって言わないと怒られるんです(笑)。

思い出の町、オースチン

 こちらはオースチンという町。30年前、この写真を撮った時は人口1500人ぐらいだったんです。それが去年行ったら300人にまで減っていて、子供は一人もいませんでした。初めてオースチンへ行った時には、サクラメントからシエラネバダ山脈を越える道を通ってきたんですが、その時すごい吹雪だったんですよ。車が横滑りしたりして怖くて。なんとか峠を越えてそれからまた延々と走って、この町へたどり着いた時は本当にほっとしましたね。

 そうして一息つこうと思って町に着くなり入ったのが、この酒場なんです。店の中もなんだかいい雰囲気でした。さっきの写真では、ちょうど右下の丘に隠れてしまっているので見えませんね。

 この写真はその酒場で飲んでいたお客のカウボーイ。ロバート・レッドフォードみたいで格好いいでしょ。僕は彼の後ろの席でひとり黙々と飲んでいたんですよ。そして、雰囲気あるなーと思いながらなんとなく撮ったのがこの1枚。

 この写真、最初に現像した時は画面が暗すぎて微かに像が見える程度だったんです。だから捨ててしまおうかと思っていたんですけれど、なんだか気になるのでずっととっておいたんです。そして、デジタル化する時に補正をかけたお陰で、こうしてはっきり見ることができたんです。今の時代だからこそ、世に出せた作品なんですよ。

 町を立ち去る時「なんだかもう1回来そうだなー」と、そういう予感めいたものを感じたものです。それで去年再びオースチンに行ってみたら、嬉しいことにあの酒場がまだ営業していました。これは30年後の酒場の写真です。少し寂れているけどほとんど変わっていない。

 残念ながら、30年前に会った人たちとは会えませんでしたね。僕も含めてみんなもう年だから昔みたいな元気はなくって。でも、酒場の写真やさっきのカウボーイの写真を印刷して店主に見せたら喜んでもらえて、滞在中ずっとお酒がタダになりました(笑)。

 これはトノパーという町、去年の写真です。やっぱりほぼゴーストタウンなんですが、写真右に写っているホテルはまだ営業中でした。格式高い老舗ホテルらしくて宿代がすごく高かったです。トノパーに行ったのは去年が初めてだったんですが、片岡さんの『ロンサム・カウボーイ』にも出てくる町だからどうしても行ってみたくて。

 トノパーから南にしばらく走ると、こんな場所にたどり着きます。廃車がたくさん地面に突き刺さっていて森みたいでしょ。「カーフォレスト」と呼ばれています。きっと、誰かがふざけて最初の1台を突き刺したんだと思います。それを見た人間が面白がって真似をして、それが10年20年続いてこんな森みたいになったんです。名所になっていて、この光景を撮るためにわざわざ来る人もいるんです。

 場所としてはエリア51という場所の近くです。UFOが出るとか言われていて有名ですよね。空軍基地も近くにあるのでジェット機が飛び回っていました。この写真の背景にも飛行機雲がたくさん写っていますね。空ではジェット機が轟音を立てながら飛んでいるのに、下ではボロボロの廃車が静かに林立するばかり、という光景はすごく不思議でした。

 これはグランドティトン国立公園。映画『シェーン』の主人公が立ち去るシーンに使われたことで有名です。この小屋は昔ここに入植したモルモン教徒のものです。一面に生い茂っている草はセージといって、秋になると黄色い花が一面に咲いて、いい匂いが漂うんですよ。枯れると、西部劇でよく見る枯れ草の玉になります。この写真を撮った時はちょうど花のシーズンだったので、アメリカのアマチュアカメラマンがたくさん来ていました。僕はあえて花が写らないように撮りましたが、左の方は一面花畑でした。みんな花畑にレンズを向けているなか、一人だけボロボロの廃墟を撮っていたから、変な目で見られて困りましたね(笑)。

 この写真は、同じ小屋を別の角度から撮ったものです。背景に米粒ほどの点がいくつか見えますでしょうか。あれも同じような小屋です。お隣さんがあんなに離れているんですよ。今となっては誰も住んでいませんが。

30年前、初めて見たアメリカ

 これは30年前の写真。荒野を走っていると、このように弾痕がついた標識をよく見かけるんですよ。標識に従って一時停止するでしょ。その時にふざけて的にするんです。

 これはトランクに腰かけてバスを待つカウボーイ。3時間ぐらいひたすら待っていましたね。おそらくロスの方に出かけるんだと思います。写真左下に足先が写っていますが、彼の足元には酔っ払いがひっくり返っていました。僕の背後には酒場があって、酔いつぶれてそこを追い出された奴がそのまま寝ちゃってたんですよ。僕はその酔っ払いを撮るふりをして彼を隠し撮ったんです。いきなりカメラを向けると、怒られたり殴られたりしちゃいますからね。

 これは1967年、最初にアメリカに行った時に乗ったバス。ロサンゼルスから4日間かけてニューヨークまで行くんですよ。昔のグレイハウンドのバスはこんな形をしていたんです。バスは昼夜問わず走り続けるので、寝泊まりもバスの中なんですが、食事休憩のために1〜2時間ほど町に停車することがあるんです。これはその休憩時間に撮った写真です。ギャロップというインディアンの町です。

 さっきの写真と同じ型のバスです。内装はこういう感じなんですよ。座席の幅が広くてふかふかで素晴らしかったんですよ。これを撮ったのは1969年、ベトナム戦争真最中の頃ですね。見てくださいよ、このおじさんが持っている新聞にニクソン大統領の写真が載っていますよ。ちょうどニクソンに変わる頃だったんです。

 こういうキャンピングカーでひたすら旅をしている家族もいるんです。つまらなそうな顔をして外を見ているこの子が目に止まって思わず撮りました。

 こうして今振り返って見ると、30年前のアメリカの写真が僕のなかで一番上手に撮れていたんじゃないかなと思います。ニューヨークの街並みや人の暮らしぶりが、今では信じられないほど上手に撮れているんです。というのも、旅行者目線じゃなくて、どっぷり浸かって生活している人の目線で撮っているから。

 それともう一つ、被写体に好かれる年代というのがあるんです。皆さんも、元気な若者が「写真撮らせてよ」なんて言ってきたら、ちょっとぐらい撮らせてやるかという気持ちになるでしょ。実は、人を撮る写真というのは撮る側の印象も大事なんですよ。あの頃の写真を見ていると、本当に恐れを知らずに撮っていたなぁと思います。ニューヨークのハーレムをカメラ片手にうろついて、見知らぬ人に声をかけることもしょっちゅうでした。若いときはそんな度胸があったんですよ。今じゃとてもできませんね。

話は弾み、片岡さんとの思い出話へ

 アメリカだと、他にはハワイの写真をたくさん撮っているんですよ。サーフィンの写真を撮る仕事でよく行っていたので。僕がサーフィンと出会ったきっかけは、ニューヨークで見た『エンドレス・サマー』という映画でした。ポスターがものすごく綺麗だったので気になって見に行ったんですよ。男たちが波を求めて南半球をひたすら旅をするという映画で、「ああ、こういう世界もあるのか」と強く印象付けられました。そして帰国する時に、ハワイの飛行場でサーフィンの専門誌が目に止まったのでパラパラめくってみたら、それに載ってる写真がどれもとってもいい写真で。それで僕もサーフィン撮ってみようかと思ったんです。

 それから何度かハワイでサーフィンの写真を撮って、雑誌の『ポパイ』とかに写真を載せていたら、片岡さんから突然電話がかかってきたんです。「一緒にハワイ行きませんか」と。この時が片岡さんとの出会いでした。実は、僕たち元々サーフィン繋がりだったんですよ。片岡さんはこの頃からすでに売れっ子作家で、一方の僕はようやく写真で食べていけるようになった頃でしたから、突然電話がかかってきて驚きました。

 角川文庫の片岡さんの小説、その表紙撮影のためにハワイで2週間ばかり片岡さんと暮らしたこともあるんです。その時に作家ってすごいなと思ったのが、常人とは目の付けどころが全く違うこと。例えば窓から部屋の中に差し込む光。時間が経つにつれて動いていく日だまりを丸一日じっと見つめて、そこから着想を得て小説を一本書いてしまうんです。街を歩いている時も僕とは全然見るところが違って、古いドアノブなんかを見つけてきて「佐藤さん、撮りましょう、これを」なんておもむろに言うんです(笑)。そういう細かいものの見方をする人なので、すごく勉強になりましたね。

 片岡さんは記憶力も良くて、細かい部分をよく覚えているんです。アメリカってガムの種類がすごく多くて、駄菓子屋に行くと色とりどりの包装がずらっと並んでいるんですが、そういう光景をじっと眺めて、ガム一つ一つの銘柄をちゃんと覚えているんです。

 ちなみに、この写真が片岡さん一番のお気に入りだそうですよ。「タイヤに片足をかけて立っている、完璧な姿だ。片手にコーラ、さらに完璧である。左手はポケットに入れて親指だけ出している、これこそまさにロンサム・カウボーイである」なんて言っていました。今度、この写真を引き伸ばして片岡さんにあげようと思っているんですよ。

 今回は番外編として、淋しくも懐かしいアメリカの写真と、その中に収められた30年のものがたりをお届けいたしました。次回の写真ものがたりは「アメリカ編 Part2」。佐藤さんとアメリカのものがたりはまだまだ続きます。どうぞお楽しみに!

もっと堪能したい方はこちらもどうぞ
写真は語る by 佐藤秀明(1)
『LONESOME COWBOY』特設ページ

次回はアメリカ編 Part2

2018年12月28日 11:57

佐藤秀明 写真集
『LONESOME COWBOY』

好評発売中!

特設ページはこちら

写真展「ロンサムカウボーイ」
東京・大阪で開催決定!

東京展:2018.11.14 〜 11.26
リコーイメージングスクエア新宿

大阪展:2018.12.12 〜 12.24
リコーイメージングスクエア大阪