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生きるに楽な場所を探しちゃいないか?――映画評論家・大久保賢一さんに聞く30年前のこと[2]

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 今日、映画評論家の大久保賢一さんに来ていただいたのは「ロンサム・カウボーイ」についてお聞きしたいことがあったからです。
 今、私たちはカメラマンの佐藤秀明さんと一緒に『ロンサム・カウボーイふたたび』というWeb企画を走らせています。佐藤さんは20日間の滞在で、相当な距離を車で走り、現地での膨大な写真を撮りました。
『ロンサム・カウボーイ』は片岡義男さんが書いた短編集につけられた本のタイトルです。作品の名前ではないです。その短編集に一貫して存在する人間像として「ロンサム・カウボーイ」が貫かれていました。その言葉から生まれるいろんなお話を大久保賢一さんからお聞きしていきたいと思いました。ご自分が感じるロンサム・カウボーイについて……実際に番組や出版に関わった経験をお持ちである大久保賢一さんにお話しいただきます。
 『ロンサム・カウボーイふたたび』特設サイトはこちら

全2回| 12


萩野 まさに映画の話が出たり、いろいろな新しい希望の動きが窺えるという時代に再び遭遇してきたのでしょう。
 一方で、モノが現れてヒトと繋がり、ヒトとヒトとの繋がりに発展していく……これがモノと人との関係で止まってしまう典型的な姿を私はレーザーディスクに見たような気がします。
 というのは、レーザーディスクはかっこいいモノとして出てきたはずだったのに、発信する中味が売れた映画の二番煎じ、三番煎じを超えられなかった。残された道は量という抽象性だったろうが、映画会社からコンテンツを買う身としてはとてもかなうものではなかった。レーザーディスクを送る側からすれば、『天国の日々』より『スター・ウォーズ』の方が大きいわけです。定着した評価、実績しか追っかける道はなかった。つまり映画やビデオを突き抜けることもなく、相似形に小さくまとまるだけのモノと人との関係だった。そして新しい技術がこれを駆逐していった。
 そういう意味だと、僕がやっている電子出版というのもまったく同じ。紙で売れたコミックを電子にして、それでいいとしている。それじゃ駄目だと知っている……なんとかその新しいトライをしようとしてくる中で出会っているのが片岡義男さんですよ。

大久保 そうなると、萩野さんがやっている形というのは、革袋と酒のたとえでいえば、目新しいものをそこに入れて提供するわけではなく、片岡義男さんの書いたもの、これから書くものを、新しい古いではなく、個性を届ける形で、革袋を新しく用意したわけですね。

萩野 新しい古いという言い方でいうと、古いものも新しいものも徹底して袋のなかに詰めていくと、そこに通っている一人の作家性が如実にわかっていくわけです。だから今日、大久保さんは「ロンサム・カウボーイ」の「ロンサム」という言葉から、片岡さんのことをずいぶん言われてましたが、私たちはお互いに「ロンサム」でつながっていることが非常によくわかる。デジタルに向かい合って、ああするナ、こうするナ、という作家はごまんといましたけれど、片岡義男さんは一切そんなことは言わなかった。自由にやれ、好きなようにやれと。その素敵さが今日ここで大久保さんが語られていることとすごく共通します。

大久保 どういう風に自分たちの作った内容を届けるかという時に、その時しかできないスタイルがあって、ラジオの番組でも本一冊でもそうだと思いますが、デザインも含めて、どの写真家と組んでどういうレイアウトにするかを最高の形でやる。それをそのままずっと続ける必要はまったくなくて変わっていくけれど、スピリットは変わらずにある。
 片岡義男さんの場合は、もともと持っているアメリカとかに関する見識ですよ、それに言葉です。日本語と英語。言葉に対しての彼のスタンスですね。クールに客観的に彼は日本語を眺めることができる。

萩野 古いものも新しいものも革袋にことごとく入れたら「古いものは新しいんだね」と(笑)。発見なんですね。
 本にしろ映画にしろ、僕らはこういう媒体を消費している。読み飛ばす、食い散らす、自分たちの行動様式としてそういうことをやらされている。送り手の論理に支配されている。その方がいいわけです。1冊の本をずっと読んでいられたら送り手は困るわけだから。

大久保 どんどん買ってどんどん捨ててもらった方がいい。

萩野 そういう教化・教育というか、抱き込んでいく動きに対して突っ張る反骨や反発、それももう一つのメディアの力じゃないかと思います。だから今日話題の番組に関わった浮田さん、桶谷さん、大久保さん、皆さんの試みを興味深く伺っています。

大久保 こだわりでもあるし、面白いことをやりたい。誰もやってないこと、こういう渋いというか、でも、気持ちのいい内容の番組をやりたいよねって、実現してしまったことが珍しいと思います。
 片岡さんのラジオ番組、『気まぐれ飛行船』もそうでした。ある種、誰かの意図で番組が成立していた時代ですよね。今もそういう風に名前を出してタレントもしゃべっていますが、かつてはすごく落ち着いた番組があって、それなりにキャリアがあった人たちが自由にしゃべる形の番組が作れたと思いますけど。

萩野 まあそういう意味じゃ、さんざんいろんなことをやって、ようやく新しい自分たちで面白いことをやろうぜみたいな機運がかすかに出てきた。これはデジタルがメディアとして意識されてきたからでしょう。この年になって、片岡義男.com、『ロンサム・カウボーイふたたび』だというのは、やはり自分を見つめたい、そこから語りたい、切なる叫びですよ、歳をとりすぎた感はあるけど(笑)。

大久保 今日持ってきた『SWITCH』のこの号、89年の号です。僕たちの番組もそうでしたが、この時期の雑誌『SWITCH』が萩野さんのやり方にもすごく通じる。あの頃、サム・シェパードから始まって、ライ・クーダー、ハリー・ディーン・スタントン、クリント・イーストウッドもそうでしたが、硬派な男たちをとりあげていた。面白かったですね。
 60年代の初頭、ポール・ニューマンの『暴力脱獄』という映画がありましたけど、スチュアート・ローゼンバーグが監督なんです。見直してみたら、ハリー・ディーンが最初から出ていて、ほとんど一言もセリフがないんだけど、何曲もギターを演奏するんですね。彼はずっと音楽が好きで、自分のバンドも組んだりしていて、俳優としてみんなに信頼されていましたが、僕がインタビュー録音のために彼の家に行って、そこで撮った写真。それから翌日は、ロサンゼルスにEIKA AOSHIMAという素晴らしい写真家がいるんですけど、彼女の選んだセッティングで、ギターを抱えて、撮影をしたんですけどね。そのインタビューを中心にした、モンタナ特集のような号なんです。
 ハリー・ディーン・スタントンがその時、どうしても君らに聞いてほしいスピーチがある、俺が朗読するからといって録音したのが、シアトル酋長の合衆国大統領にあてたスピーチというものです。この演説はアメリカ人の中に長く記憶されています。シアトルという町の名は彼にちなんで名付けられました。

■シアトル酋長

 1854年に合衆国大統領ピアスが、先住民族に「住んでいた土地は買ってやる」から居留地へ移れと通達したのに対してシアトル酋長が返した手紙です。

どうしたら空が買える? 大地を?
風の匂い、水のきらめきをどうすれば買える?
地上にあるすべてのものは、松の葉の一筋も水辺の砂の一粒も、森を満たす霧も、風になびく草も、ささやかな羽音を立てる虫の一匹に至るまで、祖父たち、そのまた祖父たちから受け継ぎ、遠い子孫にまで渡してゆくものだ。
それを「売れ」「買う」という?

 I Am Savage and I Don’t Understand. という言葉がリフレインする。十数分にわたるスピーチを朗読するハリー・ディーンの声は、映画の役柄で求められるそれとは違って、歌う彼の張りのある声でした。
 終わって、少し照れながら、彼は「孤独」ということ、一人で立つことは寂しいことではなく、来るものは拒まず、去る者は追わず、というようなことだと言った。こういうことを話し出すと、止まらなくなってしまいます。

萩野 奥が深いですね。こうやって世の中で表面に見えているものだけが世界じゃないという、やはりその裏にもっと深いものがあって、大きな力に今後なってくるんじゃないかと思う。やはりデジタルは、これからそういうものに力を貸していく時代になっていくんじゃないか。

大久保 ボイジャーの仕事も含めてですけども、デジタルでどういう形ができるかというのはまだまだ面白い拡がり方をすると思うし、実際に関わってくれるのは若い人達だから、彼らの発想がどういう風に、束縛されないで、抑えつけられないで跳べるかという、そのためには、自分が経験してきた、自分より年長の男たちの面白さを自分経由で伝えたいと思う。
 それを君たちのツールで、デジタルで、どうやって表現する? 聞いた話ではなくて、自分たちのモノを作る面白さを彼らはやってきたわけで、道具は違うけれども、君たちは自分たちの道具でどういうふうに作るのって、という感じですけどね。
 ちょうどつなぎ目、つなぎ役というのでしょうか、超アナログの男たちっていうか人種がいた、ある一瞬だったかもしれないけど、そういう70年代までのもの作りというのがあって、今はデジタルで見えるもの全部できますから、聞こえるものも含めてですけども。
 そういう端境期に丁度萩野さんや僕はいる。何を渡すかという想いを胸に。

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誰にだって思い出の風景がある。


『ロンサム・カウボーイふたたび』
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2017年10月27日
株式会社ボイジャーにて

 


2017年11月13日 17:25