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書き下ろし新刊『コーヒーにドーナツ盤、黒いニットのタイ。』ができるまで[2]

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2016年2月20日、片岡義男さん書き下ろしの小説『コーヒーにドーナツ盤、黒いニットのタイ。』が光文社より発売になります。新刊の担当者に制作の舞台裏を伺う企画・第2弾は、本書の編集者・篠原恒木(しのはら・つねき)さんに、企画のはじまりから校了までの出来事を綴っていただきました。[全6回・連日掲載]

全6回| 123456
コーヒー_トップ2

 

ジャケ写をカラーで掲載したい

 僕はずっと女性誌の編集をしていました。雑誌を長年作っていたニンゲンの悪い癖は、どうしても自分で「編集」したくなる点です。作家のかたに「どうか書いてください。できましたか。では棒組みでゲラを出します。赤を入れてください。ハイ、素敵な本になりました」という流れにどうしてもなじめない。何か自分の「引っ掻き疵」を残したいと考えてしまうのです。業が強い。出しゃばりなのです。

 そこで今回も悪い癖が出て、文芸書の体裁とは少し違ってしまいますが、物語に登場するレコードのジャケットをすべて撮影し、カラー写真で載せたいと考えました。コストを考慮すれば、もちろんモノクロ写真なのですが、絶対にカラーで再現したいと思ったのです。会社の関係部署には、あとで謝っちゃえばいいや、と腹をくくって。

 昔のレコード・ジャケットは眺めていて飽きないのです。印刷は粗悪な2色刷り。曲名の文字だって、現在のようにあらゆるフォントが揃っていないので、ほとんどが書き文字。

 でも、そこに味わいがあります。これらをモノクロ写真で掲載しても、残念なことに、その味わいが伝わらないのです。このジャケットの地色は赤なのか、あるいは緑なのか、文字は白なのか、それとも黄色なのか……。これは絶対にカラー写真でなくては。

 写真の掲載位置もいろいろと案を出して、片岡さんに相談しました。本文のスペースをページの上から3分の2に縮めて、空いた下の余白部分にジャケット写真を配置してはどうかと考えて、ハサミと糊で見本を手作りしました。僕はパソコンが苦手なもので……。

 こうすれば、物語の中に曲が登場する場面できちんと同時にその曲のジャケ写を見ることができます。脚注のようなレイアウトです。でも、このデザインだと、どうしてもいちいちジャケ写に注意が向いてしまい、肝心の小説がスラスラ読めないという理由で自ら却下。結局、それぞれの物語の文末に掲載することに落ち着きました。

 僕の作ったカンプでは、ジャケ写は30ミリ四方の大きさだったのですが、片岡さんに見せると、
「小さいよ。せっかくだからもっと大きくしようよ」
 との意見で、43ミリ四方に落ち着きました。これは大正解でした。

03_当初のレイアウト案

◆ 当初はこんなレイアウトも手作りしてみました。これだと気が散りますよね

 

レコードは素晴らしい

 あとがきにも片岡さんが書かれていましたが、レコードという存在はいいものです。適当に不便だし(いちいち針を落として、片面が終わったらひっくり返さなくちゃいけない)、適当に劣化するし(何回も聴き込むと明らかに溝が傷む)。でも、それを含めて、とてもいいものです。僕だってハイレゾに全く興味がないわけではないのですが、一度片岡さんに、
 「ハイレゾ、どう思いますか。あたかも自分がレコーディング・スタジオに同席しているかのような音像を味わえるそうですよ」
 と言ったら、
 「レコーディング・スタジオに同席してどうするのさ。それより、いいレコード・プレイヤーを新しく買うべきだよ」
 と言われました。片岡さんは本質的なことをサラッと口にします。ハイレゾによって、いわゆる「ドンシャリ」が余すところなく再現されても、ひとつひとつの楽器の音が粒立って聴こえても、レコードが醸し出す、あのまろやかでどっしりとした「空気感」には全く別の魅力がありますよね。ジャケットを含めた「質量」もうれしい。かつて、少ない小遣いを貯めてようやく手にしたレコードには代金と等価、あるいはそれ以上の「質量」が伴っていました。だからこそ一枚一枚を体に浸み込ませるように聴いたのかもしれません。

04_ボツになったレコード

◆ ボツになったレコードもたくさん。これは、あのマントヴァーニが『荒城の月』を演奏している珍盤です

(→2月17日につづく)

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本をクリックすると縦書きでお読みいただけます。
まとめて読みたい方はこちらをどうぞ。


2015年2月20日発売!
書影・俯瞰・帯なし
『コーヒーにドーナツ盤、黒いニットのタイ。』
片岡義男

担当編集者、篠原さん近影篠原恒木さん :
ツイッターアカウント @JJshinoharaでは、オンタイムの制作状況をつぶやき中!

 


▼ コーヒーといえば…[編集部おすすめの一冊]

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風が音楽になった小説。コーヒーは2杯飲むべきものとしてあらわれます。
そして、2杯飲んで読むのにちょうどいい長さ!


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寒い日は、炬燵と蜜柑と片岡義男。 | 『この冬の私はあの蜜柑だ』刊行記念インタビュー
 


2016年2月16日 07:00