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制作舞台裏|エッセイ集『珈琲が呼ぶ』――やはり、コーヒーが似合う作家[3]

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 2018年1月17日、光文社より『珈琲が呼ぶ』が発売されました。カラー写真がふんだんに盛り込まれた、コーヒーが主役の書き下ろしエッセイ集です。
 制作の舞台裏をうかがう特集・第7弾では、本書の編集者・篠原恒木(しのはら・つねき)さんに企画のはじまりから校了までの出来事を綴っていただきました。[全3回・連日掲載]

全3回| 123

タイトル底なし沼

 さて、書名、つまりタイトルです。
「コーヒーという言葉は外せないよね。コーヒーは漢字だな」
 その片岡さんの言葉を手がかりに、タイトル候補を思いついたときにメモしておきました。

 ・珈琲随筆
 ・僕はコーヒーが大好き
 ・さて、珈琲だな。
 ・珈琲の話ばかり書いた
 ・珈琲がいっぱい、珈琲を一杯
 ・主人公は珈琲
 ・珈琲底なし沼
 ・珈琲慕情
 ・寝ても覚めても珈琲
 ・珈琲暮色
 ・珈琲、ください。
 ・なぜか珈琲
 ・なぜに珈琲
 ・僕は珈琲だ
 ・珈琲に、深入り。
 ・すべて珈琲のせいだ
 ・珈琲が僕を呼んでいる
 ・珈琲でも読めば?
 ・とことん珈琲
 ・そして珈琲
 ・何はともあれ、珈琲。
 ・すべては珈琲と溶け合う
 ・珈琲もう一杯
 ・珈琲が呼んでいる
 ・珈琲は呼ぶ
 ・珈琲が呼ぶ

 以上、全部、片岡さんに見せました。本当はもっと考えて、メモしたものもあったのですが、いま読み返すと、とてもお見せできる案ではございません。このリストですら、途中ではかなり錯乱している様子がわかると思います(汗)。
「珈琲もう一杯、でいいよね。この本のタイトルは、つけようがないもんな」
「ダメです。すでに『コーヒーもう一杯』という作品が片岡さんにはあるじゃないですか。漢字にしたところで同じですよ」
と、自分が提出した案のひとつでもあるのに、反対しました。
「じゃあ、これだ」
 片岡さんが指さしたのは『珈琲が呼ぶ』でした。珈琲が僕を呼ぶ。と同時に珈琲はいろいろな人、場所、音楽、映画、劇画を呼び起こす。
「よかった。決まりですね」

装丁の夜は更けて

 いよいよ、本の装丁です。前回の本『コーヒーにドーナツ盤、黒いニットのタイ。』を担当していただいた永利彩乃さんに、今回もお願いしました。ただし、今回は僕のあの執拗な絵コンテはナシ。手作りの本文カンプをドサッとお渡しして、一切を丸投げしました。本文中のあちこちに花森安治さんが描かれたコーヒーカップの挿絵が入ってるので「どうかコーヒーが入ったカップだけはモチーフにしないでください」と、祈りながら。
「コーヒーにまつわるエッセイ集」といえば、まず考えるのはコーヒーで満たされたカップ、マグですよね。でも、それだけは避けたかったのです。平凡の極みですもんね。
 出来上がってきたのは、アブストラクトなデザインでした。以心伝心です。珈琲がいろいろな外のものに対して呼びかけている、そんな素敵なデザインでした。
 色校で琥珀色の微妙なグラデーションを調整し、めでたくカヴァーは完成。

◆カヴァー初校。琥珀色のグラデーションが曖昧です
 

◆グラデーションを修整して、格段によくなりました

 最後まで迷ったのは帯の色でした。柿色にするか、黄緑色にするか。柿色はキャッチーです。目立ちます。でも、黄緑色はちょっと他にはない色味です。販売部の意見は「柿色のほうが店頭で目立ちます」というものでした。そのことを片岡さんに告げると、
「ああ、そういうのはよくないね。黄緑色にしよう」
との返事。思わず笑ってしまいました。

◆デザイナーの永利さんと最後まで迷った幻の帯色ヴァージョン
 

◆最終的に決まった帯色がこれ。満足です

 カヴァーがミニマムなデザインで抽象的なので、帯にはできるだけの文字量を詰め込み、具象的にして、バランスをとりました。

日本一コーヒーが似合う作家

 この2年間、片岡さんと何杯コーヒーを飲んだでしょう。100杯は超えているかと思います。神保町で、経堂で、新宿で、町田で、渋谷で、銀座で、そして京都で。その中には閉店してしまった喫茶店もあります。営業を再開した店もあります。
 片岡さんは実にいいピッチでコーヒーを飲みます。僕がまだ半分くらいを飲んでいる頃には、すでに片岡さんのコーヒーカップは空になっています。もちろんミルクも砂糖も入れません。常にブラックです。
「片岡さんの飲み方は素敵なピッチですね。小説に出てくる主人公のようです」
「だって、冷めたら不味くなるだろ。ほら、そろそろ出るべ」
「まだ飲み終えてませんよ」
「お代わりするかい?」
「だから、まだ飲み終えてませんてば」
 片岡さんには美味しい料理店へもよく連れて行ってもらいました。食後に必ず片岡さんは言います。
「コーヒー、飲むだろ?」
「飲みます」
 運ばれてきたコーヒーに口をつけると、片岡さんは
「うまい」
と言います。
「うまいですね」
「うまい料理を出す店はコーヒーもうまいんだよ」
 やはり片岡義男さんは日本一コーヒーが似合う作家なのです。

 この本が皆様のコーヒーの絶好のお供になれば、これほど幸せなことはありません。そして本に登場する音楽を聴くときに、映画のDVDを観るときに、その傍らにコーヒーがあれば、もう僕はそれ以上申すことはございません。

光文社|宣伝部 篠原恒木

1月17日刊行! 『珈琲が呼ぶ』

珈琲が呼ぶザ・ビートルズ四人のサイン。
珈琲が呼ぶボブ・ディラン。珈琲が呼ぶ玉子サンド。
珈琲が呼ぶ京都・姉小路通。珈琲が呼ぶトム・ウェイツ……。
コーヒーが呼ぶ意外な人物、映画、音楽、コミックス、場所が織りなす物語の数々。
全45篇の書き下ろしエッセイ集。

【単行本】光文社|定価:本体1800円+税|352頁
【電子版】ボイジャー|600円+税

制作舞台裏|vol.1〜vol.6

stories01|寒い日は、炬燵と蜜柑と片岡義男。|『この冬の私はあの蜜柑だ』


stories02 |「私小説」の背後で、レコードは1分間に45回転の速度で回る|『コーヒーにドーナツ盤、黒いニットのタイ。』


stories03 |再会は、ひとつの言葉だ。|連作小説集『と、彼女は言った』


stories04 |“あの頃”の続きの物語を届けたい|短編集『ジャックはここで飲んでいる』


stories05 |鮮やかな作家の企み|短編集『豆大福と珈琲』


stories06 |書くこと”の根幹へ|『万年筆インク紙』


2018年1月21日 00:00