『花のある静かな日』と題された角川文庫を底本にしたが、全部で21もの掌編が収められている。掌編同士は、まったく関連性がないようにも思えるし、しかしところどころ、同じ名前の人物が現れたりもして、さてこれを「全体」としてどう把握したものか、困惑してしまう。それぞれの掌編の空間に、「花」という語彙とともに咲いているものもあるが、しかしそのことには触れていない掌編のほうが多いのも不思議である。それでいて、確かにどこかに花が咲いている、と気配で思わせるこの静けさのトーンはいったいなにか?
底本:『花のある静かな日』角川文庫 1989年