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評論・エッセイ

ステーション・ワゴン

 十六歳の夏に、父親が、三千六百ドルでステーション・ワゴンの新車を買った。
 夏休みのある日、父親は、仕事の用で、大陸の東側へ、飛行機でいった。
 父親の部屋に入り、ロールトップ・デスクのうえを見ると、キーがひとつ、キー・リングにつけて、置いてあった。自動車のキーだった。まだ新しい。新車のステーション・ワゴンのキーにちがいない。
 持ち出してガレージへいき、ステーション・ワゴンのイグニションに、そのキーをさしこんでみた。ぴたりとはまった。
 あくる日、悪友たち数人といっしょに、母…

底本:『コーヒーもう一杯』角川文庫 1980年

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