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2月17日| 『蛇の目でお迎え』メイキング、のメイキング

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東京下町育ちの私は、いわゆる山の手の生活には縁遠くなんとなく毛嫌いしていました。「ノテッコ」などと連中を呼んで、ガキの頃からコーヒーなぞ飲んでいるんだぜ、と嫌味いっぱいの眼差しで見ていました。実際、コーヒーって何か知りもしなかったのに。

そんな私は、正直、玉電(タマデン)に乗ったのは初めてでした。いや本当は玉電じゃなく、世田谷線と言うべきでしょうかネ。古い奴でどうも世田谷線とはイキヤセン。

三軒茶屋から電車に乗った途端に、ノテも下町もなく、不思議な昔にタイムスリップした感覚に浸ることになりました。電車は山の手の住宅地をスローなテンポで走り抜け、気ぜわしい都会にはあり得ないひと昔の東京へと私を運んでいったのです。

こうして新年明けたばかりの13日に、私は作家・片岡義男と待ち合わせの喫茶店、下高井戸の“ポエム”に向かいました。そこはまさに『蛇の目でお迎え』の冒頭にある、北荻夏彦と荒地三枝子が出会う場所でした。

片岡さんが小説のメイキングを書いてくださるということで、喜び勇んで出かけて行ったはいいけれど、ああだこうだといい気になって喋っているうちに、お前が書いたらどうかなんていう風向きになって、大あわて。あとは喋ることもままならず、自問自答のさてはどうなろメイキングと心細くなりました。

いやはや、苦しんだのなんの……寒空に冷や汗とはこのことかと、軽口たたく己の癖を責め立てていました。どうあろうと事態に変化は生れようもなく、ただただ書かねばならない羽目になったわけです。あの日の夕暮れ、片岡さんをはじめ集まった近しい編集者の方々も交えて夕食を囲みました。小ぎれいなイタリアン、テーブルから窓辺をとおして夜の電車がよぎって行きました。ピザを頬ばり、オリーブを噛みながら、私はひときわ哀愁に満ちて、はてさてどうなることやら彷徨うばかりでした。

帰りは片岡さんと一緒に電車に乗り、乗り換えの山下駅で片岡さんは私の電車の走り出すまでホームに立って見送ってくださった。ありがたいやら、悲しいやら、なんだい……不満のひとかけもあったやもしれません。

後日、片岡さんから電話をもらった時、この霧がさっと晴れました。

「あのね、重大なことを忘れていました……コーヒーのことを触れませんでした。このことは私が書きます。必ず私が書きたいです。少し時間をください。」

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こうしてみなさんへお届けする「メイキング」は、続きが約束されたのです。あーよかった。メインはこれから。そうとあらば、私の書いた前菜も多少は引き立て役となるやもしれません。お楽しみいただければ嬉しいです。

萩野正昭@「片岡義男 全著作電子化計画」プロデューサー

関連リンク

◯メイキングの詳細
2月17日| サポータ限定プレゼント!『蛇の目でお迎え』はどうつくられたか

◯片岡義男 全著作電子化計画
『蛇の目でお迎え』はどうつくられたかPV

2017年2月17日 13:00|編集部ブログ