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読書の秋に片岡義男のおすすめ本を読んでみる

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「優れた作家はまた優れた読み手である」と、しばしば言われます。確かに新聞や雑誌、web記事などには「作家による(他の作家の著作の)書評」をよく見かけます。書評対象となっている本の著者を知らなくても、好きな作家さんが薦める本とあらば、つい読みたくなってしまうのではないでしょうか。

作家・片岡義男もこれまで、そして現在も多くの書籍の書評を様々な媒体に提供しています。その範囲は文学のみにとどまらず、評論、研究書、写真集や絵本など多岐にわたり、内容も歴史、科学、経済、エンターテインメントなどまさにボーダーレスです。また、英語のペーパーバックを原書で読み、その内容や読後感などを日本語で書いているものも多数あります。ペーパーバックの原書を読む楽しみについてはこちらのエッセイでも語られています。若い頃に海外小説などの翻訳の仕事をしていた片岡さんならではと言えるでしょう。

今月のエッセイ特集ではそんな片岡さんによる書評のいくつかをピックアップしてお届けします。今月27日からは読書週間も始まります。一つの書評、またはエッセイとして、あるいは、「何を読もうか」と迷っている方への「みちしるべ」としてもお読みいただければと思います。


ジャック・リーチャーを十一冊、積み上げてみる

1)「ジャック・リーチャーを十一冊、積み上げてみる」
ジャック・リーチャーという人物はご存知の方も多いでしょう。2013年に日本でも公開された映画『アウトロー』で、トム・クルーズが演じた架空の人物です。この書評が書かれた2008年時点では11冊までがペーパーバックで発売されていましたが、片岡さんはこのシリーズについて「ジャック・リーチャーのシリーズは読み始めたらやめられないし、癖になって次々に読みたくなる」と書いています。ちなみにジャック・リーチャーシリーズは現在までに23作品が発表されており、日本では10冊までが邦訳されています。邦訳最新作は今年4月に発売されたミッドナイト・ラインです。


父親と息子のハードボイルド人生

2)「父親と息子のハードボイルド人生」
通称「スワガー・サーガ」で知られる、スティーヴン・ハンターの小説群です。主人公ボブ・リー・スワガーは狙撃手ですが、その父親の時代も含め親子2代にわたる活躍を描く「たいそうラギッドにハードボイルドな、サスペンス小説のシリーズ」です。片岡さんは第1巻冒頭の細密な描写に触れた上で「ふたりの男性が、父親と息子という結びつきのなかで、ひとりでは不可能な長い時間のなかで、いくつもの物語の主人公を務める、という仕掛けを著者は編み出してひとまずは成功させた」と、この作品を評価しています。「スワガー・サーガ」シリーズは邦訳の最新刊が今年の9月に発刊されています。こちらの特設サイトに詳しい情報がありますので、気になる方はまずこちらでこのサーガ全体の概要を掴まれるとよいかもしれません。


ザ・ルーキー

3)「ザ・ルーキー」
こちらは2002年にデニス・クエイド主演で映画化された『オールド・ルーキー』(原題:『ザ・ルーキー』)の原作です。主人公であり著者でもあるジム・モリスは、1999年にMLB(メジャーリーグベースボール)最年長の35歳でデビューを果たしました。この本は、彼の生い立ちからデビュー前までの苦労話が中心の「ノンフィクション・ノベル」ですが、片岡さんは興味深く読んだようです。


ザ・コンプリート ピーナッツ

4)「ザ・コンプリート ピーナッツ」
チャーリー・ブラウンやスヌーピーが登場する、チャールズ・M・シュルツの漫画『ピーナッツ』についてはもはや説明の必要はないでしょう。片岡さんは高校時代に『ピーナッツ』を知り、以後熱心なファンになったとこのエッセイで語っています。そして学生時代に好きが高じて行った「あること」について触れています。また、「ピーナッツ」については他にこんなエッセイも公開されています。
なお、このエッセイで紹介されている全集『ザ・コンプリート ピーナッツ』は、『完全版 ピーナッツ全集 スヌーピー1950~2000』として、この10月に河出書房新社から刊行が始まりました。訳者は谷川俊太郎さん。


ベイト・アンド・スイッチ

5)「ベイト・アンド・スイッチ」
この本の著者、バーバラ・エイレンライキ(エイレンライク)には、ワーキングプアの実態を自ら体験してまとめた『ニッケル・アンド・ダイムド』(2001年)という著書がありますが、『ベイト・アンド・スイッチ』は失職したホワイトカラーが再び元のクラス(階級)に戻るまでを、結婚前の姓を名乗り実際に就職活動をおこなった結果をまとめたルポルタージュです。「ベイト・アンド・スイッチ」とは「おとり商法」のことですが、ここに書かれている内容は、今現在の日本にもそのまま当てはまるかもしれません。なお、この本は『捨てられるホワイトカラー:格差社会アメリカで仕事を探すということ』のタイトルで、東洋経済新報社から邦訳が2007年に発行されています。


イン・コールド・ブラッド

6)「イン・コールド・ブラッド」
作家・トルーマン・カポーティは映画『ティファニーで朝食を』の原作小説の作者としても知られていますが、この『イン・コールド・ブラッド』(邦訳タイトル『冷血』)はカンザス州で実際に起きた一家殺人事件を自ら取材し書かれたもので、「ノンフィクション・ノベル」というジャンルを定着させた作品でもあります。1967年にはロバート・ブレイク主演で映画化もされています。片岡さんは二十歳のときにカポーティーの『ア・クリスマス・メモリー』(邦訳タイトル:『クリスマスの思い出』)を読み、「これはすごい、という強い感銘を受けた」と言います。そして『冷血』については「こりゃあすげえや、という感想を持った」と”最高に高い評価の言葉”を贈っています。


漱石文学の“会話”の深さに驚嘆する

7)「漱石文学の“会話”の深さに驚嘆する」
夏目漱石による最後の、そして未完の長編小説『明暗』は一種の対話劇のような体裁をとっています。片岡さんは夏目漱石の『草枕』をまず英語訳で読み、その後原文すなわち日本語で読み、漱石の使う日本語に驚嘆したそうです。そして続いて『明暗』を読み、さらに深い驚嘆を体験したといいます。『明暗』を読む際には、この本を手元に置き読み進めるのが最も良い読み方かもしれません。


自動車泥棒のビューイック・リヴィエラ

8)「自動車泥棒のビューイック・リヴィエラ」
片岡さんは別のエッセイの中で、シャーウッド・アンダスン(アンダーソン)の小説『ワインズバーグ・オハイオ』について「書き手としてのぼくは、『ワインズバーグ・オハイオ』から始まっている」と述懐しています。そしてこのエッセイでは『ワインズバーグ・オハイオ』と対比させる形でセオドア(シオドア)・ウィーズナーの『自動車泥棒』を紹介しています。特に主人公・アレックスについて、「僕は自分をアレックスに置き換え、それによって僕は、自分のなかにある感情の深みへと、降り立つことが出来た。文学にのみ可能な離れ業だ、と言うほかない」と書いています。作家・片岡義男を形成した重要な本のうちの1冊と言ってもよいでしょう。残念ながら現在日本語版はありませんが、英語版のペーパーバックまたはKindle版が購入できます。
※『ワインズバーグ・オハイオ』のタイトルは『オハイオ州ワインズバーグ』『ワインズバーグ、オハイオ』と表記されているものもあります。


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2019年10月7日 00:00|サイト更新情報