884編公開中。 今を映す手鏡のように
1996年 の一覧
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2017.7.8
キイチゴはどこに実っていたか
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 電話が、鳴った。  きまぐれをおこして、ぼくはその電話に出てみた。 「私です」  と、電話の相手は、言った。  そうか、きみか。  車を手に入れた、と彼女は報告してくれた。  車をとりかえるつもりだということは、春さき…
2017.7.2
日時計の影
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 昼間なら広い庭を見渡すことの出来る窓辺のテーブルで、ぼくは彼女と親しくさしむかいだった。遅い夕食を、ぼくたちは、いっしょに食べようとしていた。多忙な彼女のスケジュールにあわせていたら、今日の夕食はこの時間になってしまっ…
2017.6.29
彼女が雨を見る態度
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 1   秋の雨の頃、仕事の帰りに彼女は京都に一泊した。京都は雨だった。その雨の京都から、彼女は、親しい友人に宛てて、絵葉書を出した。絵葉書に彼女は次のように書いた。 『雨の京都で蛇の目を買いました。さっそく、それをさし…
2017.6.26
どこにでも部屋を作る才能
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 彼女はテントをいくつも持っている。興味を引くテントを見ると買ってしまう。だからいつのまにか数多くなる。いまでは毎年ひとつ、テントを買っている。冬のあいだに買い、春になると試してみる。そして夏に最終的な試用をし、秋から冬…
2017.6.23
金曜日の午後の飛行機だった
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 二階にあるコーヒー・ショップの、奥の窓ぎわの席で、ふたりは小さなテーブルをはさんでさしむかいにすわっている。「コ」の字型の建物が内側へかこいこんでいる内庭のようなスペースを、ふたりは窓ごしに見おろすことができる。内庭に…
2017.6.22
模型飛行機の午後
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 週末の午後の待ちあわせの場所へ、彼女は、紙包みをかかえてあらわれた。ふと入ったホビー・ショップでみつけて衝動買いしたのだと言いながら、彼女は包みのなかのものをぼくに見せてくれた。  ゴム動力で飛ぶ模型飛行機の組立てキッ…
2017.6.8
白い、半袖のシャツ
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「あれから、十二年?」  と、彼女がきいた。 「たいしたこと、ないよ」  ぼくが、答えた。 「そうね。それほどの時間ではないわね」  十二年が経過しても、ぼくは昔のままだ。彼女も、変化のない部分はそのままだが、変化をきた…
2017.6.1
テキーラの陽が昇る
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 会議は二時間、続いた。十五分の休憩があり、会議は再開された。それから一時間が経過していた。さらに一時間は、続くはずだ。この会議をとりしきっている男性は、会議のためにこのような時間のとりかたをするのが、好みだ。休憩をあい…
2017.5.31
荒野の風はサンドペーパー
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 早朝から、かんかん照りだった。  ついになにかが巨大に狂ったのではないかと誰もが思うような、まっ青な空から、地面のあらゆる部分にむけて、強烈な陽ざしがまっすぐに射しこまれつづけた。  ぼくがオートバイで宿を出たとき、ま…
2017.5.30
彼の後輪が滑った──(9)
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 峠道を登りつくし、道路が平坦になったところで、ぼくは転倒した。見ている人は、いなかった。ほかにオートバイも自動車も、いなかった。ぼくは、いつも、ひとりで転倒する。記憶しているほとんどの場合、転倒するのはひとりのときだ。…
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