882編公開中。 今を映す手鏡のように
1982年 の一覧
2017.7.3
ドライ・マティニが口をきく
縦書き
 仕事をおえて、ビルから外へ出てくる。  まだ、明るい。  夏は、これだから、いい。  仕事を終ってもまだ明るいという、夏の特性を、しっかり楽しまなくてはいけない、と自分自身に言って聞かせよう。  夏の午後おそくから、夕…
2017.5.29
ロッキング・チェア
縦書き
 アメリカの中西部、人口が一〇〇〇名に満たない小さな田舎町の町はずれに、その家はあった。大平原地帯のまんなかにあるこのような小さな町の町はずれは、ようするにすでに大平原なのだ。見渡すかぎり大平原しかなく、たとえば外国から…
2017.4.7
身のうえ話 その1
 小学校に入学する日、つまり入学式の日、ぼくは生まれてはじめて、学校の校舎というものを見た。  木造の大きなその建物をひとめ見たとたんに感じたことを、いまでも思いだすことができる。 「これはぼくの好きなものではない」  …
2017.1.4
ハネムーナーズ・カクテル
 広い庭の隅に車を斜めにとめ、ぼくは車の外に出た。庭に面したテラスのデッキ・チェアにすわって彼は新聞を読んでいた。新聞をひざにおろし、片手で銀縁の眼鏡をはずし、彼はぼくのほうに顔をむけた。  しわの深くきざまれた、陽に焼…
2016.9.7
信号待ち
 夏の残り香の最後の部分が、今夜のうちはまだある。しかし、明日になれば、もうどこにも見あたらないのではないか。と、ふと思ったりする、そんな夜だ。  夜は更けていた。午前二時を、すぎている。夜の底の、いちばん低い部分だ。 …
2016.9.3
風に恋した
「最高だった!」  と、彼女は、言っていた。  瞳が、輝いていた。  瞳が輝くその瞬間、彼女の全身が、生き生きしていた。  なにがそんなに最高だったのか、ときくと、彼女は、次のようにこたえた。 「うーん、ひとことで言うと…
2016.1.31
きまぐれ飛行船
『ドント・エクスプレイン』という歌について書こう、と思った。ジャズ・ヴォーカルのスタンダードのようになっている曲だ。二語だけで出来ているこのタイトルを、どんなふうに日本語訳にすればいいのだろうか。意味だけをとって、ごくつ…
2016.1.29
十四年まえのペーパーバック
 一冊のペーパーバックが、いまぼくの目の前にある。いつのまにかたくさんたまってしまったアメリカ製のぺーパーバックの山のなかから、さがしだしてきたものだ。もう何年もまえに読んだ本なのだが、ふと、なんの理由もなく再会したくな…
2015.11.17
ターザンが教えてくれた
 子供のころ、ぼくはほんとうによく遊んだ。年上の少年たちといっしょに、一人前にとびまわって遊べるようになったのが、小学校1年生くらいのときだろうか。それから12歳くらいまでの全期間をとおして、ぼくは子供の遊びを徹底して遊…
2015.11.6
道という道をぜんぶ
 いつごろから思いはじめたことなのか、自分自身でもはっきりしないのだが、かねてよりぼくとしてはかなり執着して考えつづけていることのひとつに、日本じゅうの道路という道路をすべて体験してみたい、というおかしな願望がある。  …