972編公開中。 今を映す手鏡のように
酒林 の一覧
2020.6.29
あるのか、ないのか
縦書き
 ある、という日本語について考えてみた。問題とされているその物がどこかに存在していることを、ある、と言う。この、ある、の反対は、ない、というおなじくひと言だが、ありません、という言いかたが日本語には、ある。ある、という状…
2020.6.26
電車に乗れば英語の勉強
縦書き
 平日の午後、いつもの私鉄の電車に乗る。空いている時間だから座席にすわり、ぼんやりしていると、車掌のアナウンスをなんとなく聞く。次の駅の名を告げたあと、「左側のドアが開きます」と彼は言う。続いて外国の女性による録音メッセ…
2020.5.4
あほくさ、と母親は言った
縦書き
 僕には母親がひとりいる。日常的な日本語では、産みの母、と言われている。英語ではバイオロジカル・マザーと言うようだ。その産みの母は、育ての母、でもあった。あのひとりの女性が僕を産み、僕を育てた。そのことに間違いはない。僕…
2020.5.1
義男の青春と別離
縦書き
 十一月十五日、快晴の平日、午後三時から四時のあいだ、僕は京都の三月書房にいた。友人たちふたりがいっしょだった。三月書房は御池から寺町通りに入ってすぐ左側にある。この書店が健在なら日本はそれでいいか、という気持ちになって…
2020.4.14
手巻き、という種類の時間
縦書き
 アメリカにハミルトンという時計会社がある。ここが製造している腕時計にカーキーというシリーズがあり、メカニカル、と文字盤に英文字で表示してある腕時計を、僕は使っている。この夏で三年になる。メカニカルとは、機械式、つまり手…
2020.4.10
僕は万年筆で書きたくなった
縦書き
 仕事として僕が文章を書き始めたのは二十一歳からだ。それから十三、四年後には小説を書く人となった。ワープロに切り換えるまで、合計して三十年ほど、すべての原稿は原稿用紙に万年筆で手書きした。  ワープロを使うようになってか…
2020.4.9
ソリュブルと名を変えていた
縦書き
 その広いスーパーマーケットの半分は「奥」と言っていいスペースで、そこには棚がたくさんあった。ほどよい奥行きと幅の、高さもちょうどよい加減のおなじ棚がいくつも何列にもならんでいた。どの棚にも食料品がぎっしりと詰まっていた…
2016.2.22
猫が階段で寝ている
 いつも乗り降りしている私鉄の駅から現在の僕の自宅まで、やや急ぎ足で歩いて三分ほどだ。その三分間の道のりの大部分は、階段によって占められている。段数は百二十段ほどある。僕の自宅があるあたりは高台になっていて、その下の駅や…