972編公開中。 今を映す手鏡のように
部屋 の一覧
2017.9.13
猫の寝る場所
縦書き
 猫の多江子は、突然、目を覚ました。いつもの癖だ。気持ちよく眠っているその眠りのちょうどまんなかあたりで、多江子は、いつも突然、目を覚ます。夢を見ていて、その夢のまんなかで目を覚ますこともあるが、いまはなにも夢を見ていな…
2017.9.3
彼女が愛する小さなデスク
縦書き
 彼女の自宅にある仕事部屋は彼女が作った。ただの空間でしかなかったところに手を加え、工夫をこらして、作り上げた。凝ってはいないし、加工や装飾は最小限におさえてあった。したがって改造のための資金も、自分でも驚くほどに少なく…
2017.9.2
部屋を楽しんでいる人
縦書き
 いま彼女がひとりで住んでいる部屋の設計に関して、彼女はいっさい関係していない。父親とその弟が共同しておこなっている仕事をとおして、彼女が使えることになった部屋だ。住みはじめて三年になる。破格の条件で使わせてもらっている…
2017.6.25
登場人物たちの住む部屋
縦書き
 ぼくは十五年以上にわたって、小説を書いてきた。書いている当人にとっては、真剣な遊びのようなものであるが、たとえば税金の申告のときには、作家とか文筆業として申告するので、小説を書くのは仕事でもあるようだ。  その小説の背…
2017.6.23
金曜日の午後の飛行機だった
縦書き
 二階にあるコーヒー・ショップの、奥の窓ぎわの席で、ふたりは小さなテーブルをはさんでさしむかいにすわっている。「コ」の字型の建物が内側へかこいこんでいる内庭のようなスペースを、ふたりは窓ごしに見おろすことができる。内庭に…
2016.9.25
正解はブラック・コーヒーの色
 昼食のあと彼はオフィスへ戻った。午後の仕事をはじめて二時間ほど経過して、デスクの外線電話が鳴った。左腕をのばして受話器を取り、書類を見ながら耳に当てた。彼女だった。  電話をかけてきた親しい人に対する最初の言葉として、…
2016.3.4
彼女の部屋の、ジャズのLP
 ぼくが彼女にはじめて会ったとき、ぼくはまだ少年であり、彼女は五歳年上の大人の女性だった。すっきりと成熟をとげた、いい雰囲気をたたえた、優しい、そして芯のある女性だった。  彼女と知り合ったのは、当時のぼくの自宅から歩い…
2015.12.27
プラモデル
 国電の駅を出てから踏切まで、どんなところをどのような経路で歩くのだったか、もう覚えていない。  現場へいって実際に歩いてみれば、思い出すだろう。しかし、あの頃からもうすでに十年以上が経過しているから、現場のほうだってず…
2015.12.10
西陽の当たる家
 僕は西陽の当たる家が好きだ。午後になったら自分の家は西陽を受けとめてほしい。そしていくつかの部屋には西陽が射しこんでほしい。これまで僕はいろんな場所でさまざまな家に住み、いくつもの部屋を自分の場所として使ってきた。しか…
2015.10.22
理想の窓辺にすわるとき
 理想の窓というものを、僕はときたま思い描く。自分にとっての、理想的な窓だ。そのような窓を、僕はまだ手に入れていない。しかし、好みの窓はあちこちにいくつかある。どの季節のどんな時間でも、その窓辺は楽しい。窓辺の椅子にすわ…
2015.10.19
紀子が住んでいた家
 映画と家あるいは間取り、という主題がまっすぐに結びつくいまの僕の興味は、紀子が住んでいた家だ。紀子とは、小津安二郎という映画監督がかつて作った、『晩春』『麦秋』そして『東京物語』という三本の映画のなかで、主演の原節子が…