884編公開中。 今を映す手鏡のように
自動車 の一覧
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2017.8.12
誕生日
縦書き
 かつて三津子さんという女性がいた。いまでもどこかで美しく元気にしているはずだ。この三津子さんが二十五歳のときにぼくは彼女と知り合い、彼女が二十八歳のなかばになるまで、ぼくは彼女の数多い友人のひとりだった。  彼女の二十…
2017.7.8
キイチゴはどこに実っていたか
縦書き
 電話が、鳴った。  きまぐれをおこして、ぼくはその電話に出てみた。 「私です」  と、電話の相手は、言った。  そうか、きみか。  車を手に入れた、と彼女は報告してくれた。  車をとりかえるつもりだということは、春さき…
2017.6.7
ポンティアック
縦書き
 ほんのすこしだけ昔の、あるいは大いに昔の、アメリカの自動車についてあれこれ考えていたら、懐かしい名前をたくさん思い出した。かつてぼくが親しんだアメリカ製の大きな自動車たちの名前だ。  一九六六年のポンティアック・グラン…
2017.2.23
記号を頼りに旅をはじめる
 ランド・マクナリーの道路地図だ。アメリカ合衆国を自動車で旅行するとき、この地図は欠かせない。旅行するたびに、あるいは、新しい版が出るたびに買っているから、すでに何十冊もたまっている。  人間が作ったハイウェイや町なども…
2017.1.20
林檎の樹
 星条旗が立っている郵便局の裏をゆっくりとおりすぎると、行手に一本の巨木が見えた。樹木に関するぼくの知識で判断すると、その大樹は楢の樹の一種のようだった。  巨木や大樹は、たいていの場合、神々しさに近いような威厳を、長い…
2017.1.18
ダブル・バーガー
 巨大な空の全域を、分厚い雲が灰色に埋めていた。さまざまな色調の灰色の雲が、複雑に何層にも重なりあい、その結果として、空の雲は分厚かった。重層している雲の、どの層も、急速に動いていた。深く広い空の、ここが自分の高さだと定…
2016.10.17
ぼくの好きな大空間
 最初に北アメリカ大陸を西から東へ自動車で横断したときは、その横断になんの目的もなかった。とにかく、ただ、横断してみたかったのだ。  あの広大な大陸は、地形が複雑だ。気象もそれに応じて変化する。この、地形と気象の変化だけ…
2016.9.28
アメリカはここからがもっとも面白い
 かつてのアメリカがいかに途方もなく桁はずれに豊かであったかを体感するひとつの有効な方法は、たとえば一九四〇年代、そして一九五〇年代のアメリカの、一般的な家庭雑誌に掲載されていた広告を観察することだ。  第二次大戦に勝っ…
2016.9.27
ハイウェイのある風景に挽歌がスニーク・イン
 自動車というものがもっともよく似合うのはアメリカだと、僕はずっと以前から思っている。そしてその思いには、いまも変化はない。風土にも風景にも、文化的な気質にも、アメリカには自動車がよく似合う。単なる交通機関であるとか、い…
2016.9.20
バス・ルート
 東京のなかでぼくが好きなのは、東京湾岸の一帯だと、何度もくりかえして書いてきた。湾岸一帯のほかには好きな場所がないので、今度はなにについて書けばいいか、かなり迷った。東京の、すくなくとも二十三区にさながら網をかけるよう…
2016.9.7
信号待ち
 夏の残り香の最後の部分が、今夜のうちはまだある。しかし、明日になれば、もうどこにも見あたらないのではないか。と、ふと思ったりする、そんな夜だ。  夜は更けていた。午前二時を、すぎている。夜の底の、いちばん低い部分だ。 …
2016.9.3
風に恋した
「最高だった!」  と、彼女は、言っていた。  瞳が、輝いていた。  瞳が輝くその瞬間、彼女の全身が、生き生きしていた。  なにがそんなに最高だったのか、ときくと、彼女は、次のようにこたえた。 「うーん、ひとことで言うと…
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