884編公開中。 今を映す手鏡のように
移民 の一覧
2017.7.16
「あんた、なに食う?」
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 ホノルルの下町の、日系人たちが主として日常的に利用する安食堂の雰囲気を言葉で描写するのはなかなかむずかしい。安食堂という言葉は、けっして悪い意味ではない。そのような場所でのそのような食堂は、「安食堂」以外ではありえない…
2017.6.16
『さようならの季節』
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一九六二年一月/日活〔監督〕滝沢英輔〔出演〕浜田光夫・香月美奈子 他 『さようならの季節』は一九六二年の一月十四日に公開された、カラーで七十二分の作品だ。原作はなく、『草を刈る娘』の三木克己と才賀明のオリジナル脚本によっ…
2017.5.28
オカズヤのオイナリサン
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 稲荷ずしは子供の頃からよく知っている。好きな食べ物のひとつだ。スティームド・ライスを食する方法として、たいそう好ましいではないか。しかし、子供の頃からずっと、出来不出来はあるにしても、稲荷ずしはどれもみな稲荷ずしでしか…
2017.4.30
シジミ汁のシジミを数えよう!
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 三等船客のための簡素な日本食の食事に味噌汁がついていた。その味噌汁がもしシジミ汁であったなら、まず、味噌汁の大なべのなかから、シジミだけをしゃくしですくいあげて器に移した。大なべのなかにあるシジミぜんぶを、器に移すのだ…
2017.4.29
憧れのハワイ航路
縦書き
「チャイチャイブー」のひと言がなぜぼくにとって衝撃的であったかについて書くまえに、秩父丸に三等客として乗るとどのような感じであったかに関して、明らかにしておかなくてはならない。すべては有機的に複雑に連関している「チャイチ…
2017.2.25
移民の子の旅 ホノルル、一八六八年
 夜明けと共にワイアナエとコオラウの山なみの頂きに雨雲がとまりはじめた。空が白んでいくと、雨が来た。大粒の重い雨だった。草ぶきの屋根を叩き、板張りの小屋の壁を横なぐりにし、樹の葉にひっきりなしに当たっては、はじけた。たく…
2017.1.6
アロハ・シャツの歴史を旅する
 いまから十二年くらい前、アロハ・シャツの起源とその後の展開、つまりアロハ・シャツの歴史に関して、ぼくはハワイで調べたことがある。ふと思いつき、面白そうだったのでちょっとやってみたのだ。人を訪ねまわることはせずに、図書館…
2017.1.4
ハネムーナーズ・カクテル
 広い庭の隅に車を斜めにとめ、ぼくは車の外に出た。庭に面したテラスのデッキ・チェアにすわって彼は新聞を読んでいた。新聞をひざにおろし、片手で銀縁の眼鏡をはずし、彼はぼくのほうに顔をむけた。  しわの深くきざまれた、陽に焼…
2016.1.27
秩父がチャイチャイブーだなんて、すごいじゃないか
 ハワイに対するぼくのほうからの熱意や興味は、たいへんにトータルなものでありつづける。あのような興味深い場所ないし文化に対して、部分的にしか興味を持たないということは、すくなくともぼくの場合、ありえない。  そのトータル…
2015.12.7
チャタヌーガ・チューチュー
縦書き
 朝のまだ早い時間なのに、居間はもう暑かった。陽がさしこんだりはしないのだが、むっとするような空気がこもっている。  新聞を持った徳一は、居間からキチンへ歩いた。  キチンは北側にあり、この小さな家のなかでは、たいていの…
2015.10.20
父親と万年筆
 僕の父親は、ハワイで生まれてカリフォルニアで育った、日系二世のアメリカ人だ。ひとりの人としての核心部分まで二世らしさの貫徹した、謎の多い不思議な人物だった。二世の見本のような人だった、と言っていいだろう。このような人た…