884編公開中。 今を映す手鏡のように
神保町 の一覧
2017.10.8
それらは消えた、そしてそれっきり(2)
縦書き
《(1)からのつづき》  いまも神保町にあるもの。とっくに、あるいはいつのまにか、消えてしまったもの。この両者を、不確かな僕の記憶のなかで見くらべていると、なんと言ったって決定的に消えたのは都電だ、という思いに僕は到達し…
2017.10.7
それらは消えた、そしてそれっきり(1)
縦書き
 建てなおす以前の三省堂は良かった。あのクラシックな建物は、見るからに三省堂だった。たとえばお茶の水駅から明大前の坂を降りてきて、駿河台下の交差点から向かい側を見ると、そこに三省堂があった。あの建物がいつ頃に建てられたも…
2016.11.12
万年筆についての文章
 原稿料のともなう文章を、僕は大学生の頃から書き始めた。原稿料がともなう文章とは、この場合は、商業的に出版されている雑誌に書く、という意味だ。  そのような文章には、当然のことだが、締切りがある。なにを書くにしても、その…
2016.11.6
彼は鉛筆を削りながら交差点を渡っていった
 かつて鉛筆で原稿を書いていた頃、僕は自宅ではその鉛筆をナイフで削っていた。スイス・アーミー・ナイフ、つまりヴィクトリノクスあるいはウェンガーのどちらでもいい、長さ五センチと一センチ八ミリの大小ふたつの刃が一枚ずつついて…
2016.6.10
ジン・ボ・チョへの道
 都営新宿線の地下鉄で新宿から神保町まで、二百十円でいくことが出来る。三百八十円というようなときがくれば、そのとき多くの人々は、かつて二百十円だったことを忘れている。なにかの折りに昔の料金を知って、その安さに人々は驚くの…
2016.3.1
カーメン・キャヴァレロ(3)
 一九六五年、昭和四十年、十二月、キャヴァレロは三度目の来日を果たした。それに先がけて、『カーメン・キャヴァレロと二人の世界』というLPが日本で発売された。昔のヒット歌謡曲三曲に、六〇年代なかばの日本でヒットしていた歌謡…
2016.2.28
カーメン・キャヴァレロ(1)
 一九七四年のたしか春だったと思う、僕はFM局で二時間のラジオ番組のホストのような役を、仕事の一部分として始めた。週に一度のこの番組、『気まぐれ飛行船』は、それから十三年間、続いた。その十三年間の前半にひとり、そして後半…
2016.2.23
交差点の青信号を待ちながら
交差点の横断歩道の信号は赤だった。青に変わるのを待つために僕は立ちどまった。歩くために脚を動かしていたことによって、僕の体内にはエネルギーが撹拌されていた。急に立ちどまったからそのエネルギーは行き場を失い、頭へと上がった…
2016.2.21
スター軍曹が降ってくる
 ある日の午後、すずらん通りにある二階の店から、僕はひとりで階段を降りてくる。手ぶらだ。探しているものは、この店にはなかった。では別の店へいこう。別の店への道順はさまざまにあり得る。その日の僕はすずらん通りの東の端まで歩…
2016.2.20
喫茶店を体が覚える
 LPが二十枚、ヴィニールの袋に入っている。かかえて持つとかなり重い。僕は中古レコード店を出て来たところだ。何軒かを巡回する予定だったのだが、一軒の店で二十枚も見つかってしまった。だから今日はこの一軒でおしまいだ。ひと休…