972編公開中。 今を映す手鏡のように
珈琲 の一覧
2020.6.30
TVの記憶をふたつ
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 当時の僕の仕事場はたいそう快適だった。東の端にあった階段を二階へ上がり、まっすぐの廊下を西へ向けて歩いていき、突き当たりにあった和室を抜けると、二十畳ほどの広さの人工芝のヴェランダだった。このヴェランダの南西の角に、温…
2020.6.25
『ピーナッツ』を語る 一生もののつきあい
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『ピーナッツ』の連載が始まったのは一九五〇年十月二日だったという。アメリカ各地の七つの新聞に、『ピーナッツ』のコミック・ストリップが連載で掲載された。作者のチャールズ・M・シュルツから原画を受け取った配信会社が、全米各地…
2020.5.25
白い皿の朝食
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 僕は目を覚ます。ベッドのなかだ。窓のない寝室はほの暗い。ほの暗い寝室というものは、時間の推移に沿うことを放棄している。一日という時間のなかの、いまが何時頃なのか、見当がつかない。  いちおうはよく眠った、という感覚が僕…
2020.4.21
あの道がそう言った
縦書き
白く輝く雲へ  まだ梅雨だがその日は、梅雨明けの初日のように、素晴らしい晴天だった。小田急線の上りひと駅の下北沢で井の頭線に乗り換えて渋谷へ。朝のラッシュアワーの地下鉄銀座線浅草行きのプラットフォームでは、人々が三列にな…
2020.4.16
僕の父親はDadだった
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1  自分のことをDadと呼べ、と父親がはっきりと僕に言ったときのことを、遠い思い出ではあるけれど、いまでも僕は覚えている。戦後すぐのことだった。当時の僕は五歳ないしは六歳で、ちょうど物心がついた年齢だった。  自分の父…
2020.4.9
ソリュブルと名を変えていた
縦書き
 その広いスーパーマーケットの半分は「奥」と言っていいスペースで、そこには棚がたくさんあった。ほどよい奥行きと幅の、高さもちょうどよい加減のおなじ棚がいくつも何列にもならんでいた。どの棚にも食料品がぎっしりと詰まっていた…
2020.3.3
秋の雨に百円の珈琲を
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 十月初めの平日、雨は朝から降っていた。昼前に窓から外を見たら、雨はやんでいた。たたんだ傘を持って人が歩いていた。雨は降ったりやんだりの一日なのだ、と僕は思った。夕方近く、自宅を出ていつもの私鉄駅へ歩いていくとき、僕は傘…
2015.12.6
ストーリーは銀行に預金してある
 ドーナツの店のカウンターで、僕はドーナツを食べながらコーヒーを飲んでいた。隣りにすわった男性が話しかけてきた。いつもの顔なじみに、ひょいと世間話をむけるのとおなじ調子で、 「やっこさんは、いい大統領だよ。俺は気にいって…
2015.11.28
二本の映画と一杯のコーヒー
1  ある秋の日の午後おそく。重い灰色に曇った日だった。夕暮れが近づきつつあり、重い灰色の中には、妙に季節感のない暮色が、いくらかは、かさなっていたはずだ。  ぼくは坂を降りてきた。その盛り場は、何本もの坂の途中や、坂か…
2015.10.19
コーヒーもう一杯 
 七月が終わった。もう八月だ。いまは朝の八時。どんよりとした、という定石的な形容詞がぴたりとあてはまる、すこし重い感じの曇った日だ。気温は、八月のスタート時期にしては、すこし低い。風がとまっている。  ぼくは、コーヒーを…