972編公開中。 今を映す手鏡のように
夕食 の一覧
2020.6.30
TVの記憶をふたつ
縦書き
 当時の僕の仕事場はたいそう快適だった。東の端にあった階段を二階へ上がり、まっすぐの廊下を西へ向けて歩いていき、突き当たりにあった和室を抜けると、二十畳ほどの広さの人工芝のヴェランダだった。このヴェランダの南西の角に、温…
2017.9.30
三つのパラグラフのなかの彼女
縦書き
 ひさしぶりに彼女に会った。夏のまっさかりの日に会って以来だから、ひさしぶりなのだ。いまは、すでに秋が深い。落葉樹の葉は光合成を終わりつつあり、日没の太陽の光を、高くたなびいている絹雲が静かに照りかえしている。  真夏に…
2017.9.7
銀座で夕食の約束
縦書き
 銀座で夕食の約束があった。僕と男性もうひとり、そして女性がふたりの、合計四人だ。女性たちのうちのひとりと落ち合った僕は、コーヒーを一杯だけ飲み、彼女とともに夕方の銀座を夕食の店にむかった。  歩道を歩いていて、あるとき…
2017.7.2
日時計の影
縦書き
 昼間なら広い庭を見渡すことの出来る窓辺のテーブルで、ぼくは彼女と親しくさしむかいだった。遅い夕食を、ぼくたちは、いっしょに食べようとしていた。多忙な彼女のスケジュールにあわせていたら、今日の夕食はこの時間になってしまっ…
2017.6.26
どこにでも部屋を作る才能
縦書き
 彼女はテントをいくつも持っている。興味を引くテントを見ると買ってしまう。だからいつのまにか数多くなる。いまでは毎年ひとつ、テントを買っている。冬のあいだに買い、春になると試してみる。そして夏に最終的な試用をし、秋から冬…
2017.6.23
金曜日の午後の飛行機だった
縦書き
 二階にあるコーヒー・ショップの、奥の窓ぎわの席で、ふたりは小さなテーブルをはさんでさしむかいにすわっている。「コ」の字型の建物が内側へかこいこんでいる内庭のようなスペースを、ふたりは窓ごしに見おろすことができる。内庭に…
2016.11.27
彼女から届く絵葉書
 彼女と知り合って三か月ほどして、彼女からの最初の絵葉書が私のところに届いた。国内の旅先からであることが消印からわかった。フラミンゴの絵葉書だった。フラミンゴのひな鳥が、親鳥から口うつしで餌をもらっているところが、縦位置…
2016.9.25
正解はブラック・コーヒーの色
 昼食のあと彼はオフィスへ戻った。午後の仕事をはじめて二時間ほど経過して、デスクの外線電話が鳴った。左腕をのばして受話器を取り、書類を見ながら耳に当てた。彼女だった。  電話をかけてきた親しい人に対する最初の言葉として、…
2016.7.9
ゴールデン・スランバーズ|アビーロードのB面
 この激しい降りようは、いったいどうしたことだろうかと、彼女はひとりで思った。叔母さんの家で過ごした、明るく陽の射す午後が、まるで嘘のようだ。あの午後が終わってから、まだ五時間ほどしか経過していないのだが、あの午後といま…
2016.6.11
美しい謎の霧子はどこへ消えたのか
 霧子は完璧だった。彼女自身にとって、そして彼女の相手となる人にとっても、まったく負担にならない性質の、たいへんな美貌だった。控えめでもの静かで、冷静そうな雰囲気は、頭やセンスの良さの当然の反映だったにちがいない。姿は素…
2016.4.17
海岸にて、というタイトルでなにか書いてください
 いつもの街で、ふたりは昼すぎに会った。四月十七日、気温の高い、気持ちよく晴れた美しい日だった。海岸へいってみようか、と彼が提案した。彼女は賛成だった。夜までには町へ戻り、ふたりで夕食を楽しむことにして、ふたりはすぐに駅…
2016.3.7
散歩して鮫に会う
 空気の香りや感触が、ある日、冬を抜け出して春のものになっていることに、僕は気づいた。海を見たくなった。春になった日の海の匂いや音を、あるいは海の巨大さを、体の内部に受けとめたくなった。  だから僕は海へでかけてみた。東…