972編公開中。 今を映す手鏡のように
夕方 の一覧
2020.6.24
午後五時の影
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 ぽっちゃり、という日本語をなんとか英語で言うことは出来ないか、と考えた時期があった。いまから二十年くらいは前のことだ。ごく平凡には、plumpだろう。しかし日本語のぽっちゃりは、語感として明るく、ぽっちゃりしているとい…
2018.4.4
春まだ浅く、三冊の本を買った夕方
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 今年の春がまだ浅かった頃、平日の夕方、僕はその大きな書店に三階から入った。奥のエスカレーターでいつものように六階へ上がった。六階の三分の一ほどが洋書売り場だ。洋書売り場の客になると、そのとたん、やや誇張して言うなら、僕…
2017.9.28
彼女と一台の自動車
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1  秋の午後、やや遅い時間。あるいは、夕方のすこし早い時間。ダイニング・ルームに客をとおす準備は、まだ終わっていない。早い時間の客は、したがって、ロビーとして使っている部屋か、バー、あるいはテラスに案内される。彼女はテ…
2017.9.7
銀座で夕食の約束
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 銀座で夕食の約束があった。僕と男性もうひとり、そして女性がふたりの、合計四人だ。女性たちのうちのひとりと落ち合った僕は、コーヒーを一杯だけ飲み、彼女とともに夕方の銀座を夕食の店にむかった。  歩道を歩いていて、あるとき…
2017.9.2
部屋を楽しんでいる人
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 いま彼女がひとりで住んでいる部屋の設計に関して、彼女はいっさい関係していない。父親とその弟が共同しておこなっている仕事をとおして、彼女が使えることになった部屋だ。住みはじめて三年になる。破格の条件で使わせてもらっている…
2017.6.29
彼女が雨を見る態度
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 1   秋の雨の頃、仕事の帰りに彼女は京都に一泊した。京都は雨だった。その雨の京都から、彼女は、親しい友人に宛てて、絵葉書を出した。絵葉書に彼女は次のように書いた。 『雨の京都で蛇の目を買いました。さっそく、それをさし…
2017.2.2
アメリカの小さな町
 ハイウェイから離れて、田園地帯の中の二車線の道路を行く。あたりは、絵に描いたような美しさだ。  ゆたかな緑が広がり、空気はきれいで、道路には、ぼくたちの乗った自動車しか走ってはいない。  道路の脇に、町の名を書いた標識…
2016.9.25
正解はブラック・コーヒーの色
 昼食のあと彼はオフィスへ戻った。午後の仕事をはじめて二時間ほど経過して、デスクの外線電話が鳴った。左腕をのばして受話器を取り、書類を見ながら耳に当てた。彼女だった。  電話をかけてきた親しい人に対する最初の言葉として、…
2016.2.14
彼女は彼を愛していた
 彼女は彼を愛していた。彼も、彼女を愛していた。ふたりの関係は、とても素晴らしいものだった。このままいつまでもつづけばいいと、ふたりとも思っていた。  だが、丸二年つづいて三年目に入ってすぐに、ふたりは別れなくてはいけな…
2016.2.13
四季のひとめぐり
「今日は記念日なのよ」  彼女が言った。 「そうだね」  彼が答えた。 「自覚してましたか」 「ちょうど一年だ。昨年の今日、僕たちは知り合った」 「あれから一年なのね」  平凡な言いかたに彼女は優しい感慨をこめた。 「一…
2015.12.10
西陽の当たる家
 僕は西陽の当たる家が好きだ。午後になったら自分の家は西陽を受けとめてほしい。そしていくつかの部屋には西陽が射しこんでほしい。これまで僕はいろんな場所でさまざまな家に住み、いくつもの部屋を自分の場所として使ってきた。しか…
2015.11.18
僕たちのはじめての海
 ハワイにいるときの彼は、オアフ島の北側、サンセット・ビーチのすぐかたわらにあった木造二階建ての古い家に住んでいた。その家へ僕は何度も遊びにいった。泊めてもらったことも一度や二度ではない。彼がほかの場所にいるときには、自…