882編公開中。 今を映す手鏡のように
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2017.1.17
弁当
 東京都世田谷区立の、男女共学のきわめて普通の高等学校をぼくは受験して合格し、その高校を三年間でごく普通に卒業した。  ぼくが受験する高校としてこの学校を選んでくれたのは、中学三年生のときの担任の先生だった。現在の事情を…
2017.1.16
早稲の田に風はほんとに吹いたか
 高校の三年生になると大学進学に関するさまざまなことが話題になってきていたが、ぼくは大学へいく気などまったくなかった。ぼくは学校の勉強が好きではなく、勉強とはデスクにむかって教科書や参考書にアンダーラインを引くことだと考…
2017.1.14
寒くなるとセーターを着て羊になる人
 子供の頃も、そしていまも、ぼくはセーターがあまり好きではない。服を何枚も重ねて着るのが、そもそも嫌いだ。窮屈でかなわない。体は自由に動かず、心までひとつの位置や方向に固定されたような気持ちとなり、ほんとにいやだ。セータ…
2016.12.25
これが天使の町だって?
 ロサンゼルス空港を飛び立った飛行機が、高度をあげていった。主翼のすぐ前の窓際にすわって、窓の外を見ていた。ぴかぴかにみがかれた主翼が、冬の午後の太陽をうけとめて光り、まぶしかった。  眼下に、ロサンゼルスの町が広がって…
2016.12.14
彼の後輪が滑った──13(秋〜冬)
 高架の高速道路の上は、不思議な世界だ。都会の内部に密集している建物のあいだを、地面でもなければ上空でもない、その中間の微妙な高さにおいて、ほとんどなんの理由もなしに起伏し、蛇行している。そして、強引に前方へとのびていく…
2016.12.6
彼がはじめて太平洋を見たとき|彼らはなぜ海へ来るのか|2
 海を求めてカリフォルニアに出てきた理由を、彼は、閉所恐怖症にかかったからだと説明していた。  北アメリカ大陸のほぼまんなかと言っていいアーカンソー州のさらにまんなかちかくの小さな町で生まれてそこで育った彼は、十七歳にな…
2016.1.24
くっきりとした輪郭としての寒い季節
 今年の冬は寒い、という予報はどうやらはずれたようだ。冬の寒さ、というものを僕は期待していたのだが。たとえばこの正月は、まるで寒くなかった。寒い、と思った日が、この冬はまだ一度もない。この冬、というような言いかたが、すで…
2016.1.13
ある種の恋人は現場に戻って回想する
 パトリス・ルコント監督は、好みのものをじっと見つめて観察するのが好きな人だ、と僕は思う。自分の好みのものをいつまでも自分のものとしていたいから、彼はそうする。見つめ観察する対象がたとえば彼女というひとりの女性なら、彼女…
2016.1.1
一月一日のこと
 掘りごたつのある部屋へもどって来た彼女は、美しい身のこなしで彼とさしむかいの位置にすわった。  さきほどまでふたりで遊んでいたバックギャモン用のサイコロをふたつ手にとり、テーブルのうえにやさしく転がした。  サイコロは…
2015.12.24
あの夜はホワイト・クリスマス
 あの年のクリスマス・イヴには、彼はオートバイで山のなかを走っていた。夜のまだ早い時間に峠道に入り、対向車も後続車もまったくない、彼だけのワインディング・ロードを気分よく走っていた。猛烈に寒いのだが、ときたまオートバイを…
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