883編公開中。 今を映す手鏡のように
『ターザンが教えてくれた』 の一覧
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2017.7.28
アイランド・バウンド
縦書き
 その島は、上空から見ると、ジェリー・ビーンズのようなかたちをしている。太目になりかけた三日月の、上下両端のとがった部分を丸くしたかたちだ。  小さな島だ。青い海のうえの、濃い緑色の三日月だ。環礁の一部分だから島の周囲を…
2017.7.6
食卓には花を!
縦書き
 アパートメントの部屋を、彼女は出てきた。彼女の部屋は三階にある。小ぶりなアパートメントだが、ユニットごとに複雑に組み合わせたかたちになっていて、このかたちの人工的なところが彼女は気に入っている。そして、住み心地は、とて…
2017.7.3
ドライ・マティニが口をきく
縦書き
 仕事をおえて、ビルから外へ出てくる。  まだ、明るい。  夏は、これだから、いい。  仕事を終ってもまだ明るいという、夏の特性を、しっかり楽しまなくてはいけない、と自分自身に言って聞かせよう。  夏の午後おそくから、夕…
2017.6.21
好きな歌の集めかた
縦書き
 いつのまにかLPレコードがたくさんたまってしまった。何枚あるのか数えたことは一度もないが、とにかくたくさんある。たくさんあるだけではなく、いろんなジャンルに広くまたがっている。大きなレコード店へいくと、数多くのLPレコ…
2017.5.31
荒野の風はサンドペーパー
縦書き
 早朝から、かんかん照りだった。  ついになにかが巨大に狂ったのではないかと誰もが思うような、まっ青な空から、地面のあらゆる部分にむけて、強烈な陽ざしがまっすぐに射しこまれつづけた。  ぼくがオートバイで宿を出たとき、ま…
2017.5.29
ロッキング・チェア
縦書き
 アメリカの中西部、人口が一〇〇〇名に満たない小さな田舎町の町はずれに、その家はあった。大平原地帯のまんなかにあるこのような小さな町の町はずれは、ようするにすでに大平原なのだ。見渡すかぎり大平原しかなく、たとえば外国から…
2017.4.7
身のうえ話 その1
 小学校に入学する日、つまり入学式の日、ぼくは生まれてはじめて、学校の校舎というものを見た。  木造の大きなその建物をひとめ見たとたんに感じたことを、いまでも思いだすことができる。 「これはぼくの好きなものではない」  …
2017.1.4
ハネムーナーズ・カクテル
 広い庭の隅に車を斜めにとめ、ぼくは車の外に出た。庭に面したテラスのデッキ・チェアにすわって彼は新聞を読んでいた。新聞をひざにおろし、片手で銀縁の眼鏡をはずし、彼はぼくのほうに顔をむけた。  しわの深くきざまれた、陽に焼…
2016.9.7
信号待ち
 夏の残り香の最後の部分が、今夜のうちはまだある。しかし、明日になれば、もうどこにも見あたらないのではないか。と、ふと思ったりする、そんな夜だ。  夜は更けていた。午前二時を、すぎている。夜の底の、いちばん低い部分だ。 …
2016.9.3
風に恋した
「最高だった!」  と、彼女は、言っていた。  瞳が、輝いていた。  瞳が輝くその瞬間、彼女の全身が、生き生きしていた。  なにがそんなに最高だったのか、ときくと、彼女は、次のようにこたえた。 「うーん、ひとことで言うと…
2016.5.5
菖蒲湯そして乾杯
 端午の節句には京都にいた。なんの用件も目的もないまま、ただでかけてみたくなってやってきた京都だった。イノダでコーヒーを飲めばそれで充分だというような、一泊するだけの小旅行だ。  イノダでは、たしかにコーヒーを飲んだ。三…
2016.1.31
きまぐれ飛行船
『ドント・エクスプレイン』という歌について書こう、と思った。ジャズ・ヴォーカルのスタンダードのようになっている曲だ。二語だけで出来ているこのタイトルを、どんなふうに日本語訳にすればいいのだろうか。意味だけをとって、ごくつ…
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