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評論・エッセイ

いつも代金を払わない男|アビーロードのB面

 広場の南西の片隅、いつもの位置に、新聞売りの小屋が今日も出ていた。北東の方向から広場にむけて歩いてきた彼は、広場を斜めに横切った。鳩をよけながら、噴水のかたわらを通過した。
 新聞売りの小屋のまえに立った彼は、新聞売りの初老の男性に微笑した。初老の男性は、無精髭の浮かんだ顎を上げて、挨拶を返した。
「いいお天気ですね」
 若い彼が言った。
 今日は重く灰色に曇った日だ。そして彼は、ビジネス・シャツの上にレイン・コートをはおっていた。先日、雨の日に着ていたビニールのレイン・コート…

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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