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評論・エッセイ

5月27日 ショート・ショート

 夏はすでに終っている。九月もなかばをすぎたのだから、当然だ。九月のはじめには、たいへんきびしい残暑というかたちで、夏がまだ残っていた。なかばをすぎたいまでは、どこをどう見渡しても、夏は消えてしまっている。この九月が終るころには、気温は大きくさがっているにちがいない。九月は、気候の変動が大きい月だ。天気図を見ると、南方海上に台風はまだない。そのせいで、いまのところ、おだやかな晴天の日がつづいている。
 どこをどう見渡しても夏はすでに消えてしまっている、とたったいまぼくは書いたが、夏の残り香をついさっきぼくはひとつだけ見つ…

底本:『すでに遥か彼方かなた』角川文庫 一九八五年

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