VOYAGER

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評論・エッセイ

僕たちのはじめての海

 ハワイにいるときの彼は、オアフ島の北側、サンセット・ビーチのすぐかたわらにあった木造二階建ての古い家に住んでいた。その家へ僕は何度も遊びにいった。泊めてもらったことも一度や二度ではない。彼がほかの場所にいるときには、自分の家と同様にそこに住んだこともあった。
 ゆったりとした間取りの、開放的な雰囲気のある素朴な家だった。訪ねてくる誰もが、その家を気にいっていた。海の香りと音が一日じゅう家のなかにあった。そして香りも音も、時間の経過にしたがって微妙に変化した。
 その家のどの部分も素敵だったが、もっともいい…

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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