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片岡義男.com 全著作電子化計画

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評論・エッセイ

パムとはパミラのことか|アビーロードのB面

 町にいたときは快晴だったのだが、海岸まで来てみると、空には雲が出はじめていた。海岸は広く快適だった。人の姿は、遠くにひとりふたり、小さく見えているだけだ。
 パミラは、初夏の街着のまま、海岸から海のなかへ入っていった。砂の上にヒールのあるサンダルを脱ぎすて、遠浅の海岸を波にむかって歩いた。くるぶし、ふくらはぎ、膝、そして太腿と、順番に水没していった。海面が彼女の腰まで到達したとき、スカートはその内側に空気をはらみ、水面の上に大きくふくらんだ。笑いながら、パミラは両手でスカートを水のなかへ引きこんだ。
 そ…

底本:『アール・グレイから始まる日』角川文庫 1991年

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