884編公開中。 今を映す手鏡のように
エッセイ・コレクション の一覧
2017.1.21
一人称による過去形。しかし世界はいつのまにか現在。日系四世の女性の浮世。アメリカン・ドリームの外縁のいちばん外に近いあたり
 シンシア・カドハタの小説、『ザ・フローティング・ワールド』のタイトルは、浮いている世のなか、つまり浮世という日本語の、英語への直訳だ。そしてこの場合の浮世とは、一九五〇年代のアメリカに存在した、白人中産階級を中心とした…
2017.1.9
僕にとっての個人的なスタンダード
 いまから百年前、おそらくまだ青年の名残をとどめていた年齢の頃、僕の祖父はハワイへ渡った。僕の父親はハワイで生まれてそこで育ち、カリフォルニアその他で成長の仕上げをした。ハワイとアメリカの日系人社会が、幼い頃から僕の身辺…
2017.1.7
波乗りとは、最終的には、心の状態だ
 ヨーロッパ文明と接触する以前の、大昔のハワイ人たちは、文字を持っていなかった。だから、すべてのことが、喋る言葉によって、伝えられていった。  ハワイ諸島の創世伝説とか、昔のキングに関する記録のような言い伝えとか、さまざ…
2017.1.5
どこにもないハワイへの行きかた
 ハワイが島ではなくなっていく、とぼくが、ある日、自覚する。その自覚を土台として、センチメンタルな感情のたかまりが、おこってくる。まだ島としての香りや感情の残っている部分を、なくなってしまわないうちに、まるで落葉をひろい…
2017.1.4
ハネムーナーズ・カクテル
 広い庭の隅に車を斜めにとめ、ぼくは車の外に出た。庭に面したテラスのデッキ・チェアにすわって彼は新聞を読んでいた。新聞をひざにおろし、片手で銀縁の眼鏡をはずし、彼はぼくのほうに顔をむけた。  しわの深くきざまれた、陽に焼…
2017.1.2
貝がら売りの泣きむし男
 昔、プロペラ機で飛行場に着陸すると、すぐに、機内に、ハワイの香りをいっぱいにはらんだ空気が流れこんできたものだった。スチュワデスのアナウンスメントの最後につける「アローハ」のひと言も、雰囲気や抑揚が、本物のハワイ語だっ…
2016.12.30
ヒロの一本椰子
 昔のハワイ人たちは森林をおそれていた。メネフネなど、不思議な生き物が森のなかにたくさん住んでいるのだと信じていて、そのため、たとえば森のなかに住居をつくったりはせず、海岸の水ぎわの、森のないあたりに小屋を建てて住んでい…
2016.12.21
クロスワード・パズルの楽しさが、ぼくを離してくれない
 ぼくは、クロスワード・パズルについて書くのを忘れていた。  だから、クロスワード・パズルについて書こう。  日本でアメリカのクロスワード・パズルに接するもっとも簡単な方法は、日本で発行されている英字新聞を買い、その新聞…
2016.12.20
遠い昔の日に
 大昔のハワイでは、平民も貴族も、だいたい分けへだてなく平等にサーフィンを楽しんでいた。しかし、やはり貴族たちのほうが、有利だった。アリイと呼ばれていた酋長階級だ。平民のように直接の生産に従事せず、したがってヒマがあった…
2016.12.19
陽が沈むころ、オンボロ自動車で波乗りフィルムを見に行く
 朝は早くに起きる。五時、六時という早さだ。まやかしのない、ソリッド(内容のしっかりした)な材料でつくった朝食を、時間をかけてゆっくり、しかも、しっかりと食べる。食卓の話題は、波のことばかりだ。ラジオのニュースが、今日の…
2016.12.18
十二月のハワイは波乗りシーズンのちょうどまんなか
 スクリーン・ドアをあけて玄関のポーチのうえに出る。気持ちの良い、さらっとした風が、全身をなでる。ポーチの木の階段を、庭へ降りる。芝生のうえを裸足で歩く。芝生は、しっとりぬれている。淡いとおり雨の雲が、さあっとまいていっ…