971編公開中。 今を映す手鏡のように
2020.4.29
そうか、きみは島へ帰るのか
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 ハワイから日本へ戻ることにきめた数日後、親しい日系の二世の男性が、So. You are going back to your island.と、僕に言った。そうか、きみは島へ帰るのか、というような意味だ。日本が島だと…
2020.4.28
パペーテ空港の夜
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 晴れた日の午後一時すぎにホノルル空港のはずれから飛行機に乗った。小型のプロペラ機、という言いかたのまさに当てはまるような飛行機だった。ディハヴィランドのなんとかという機種だったが、正確には覚えていない。なにしろあと数年…
2020.4.27
ハッピーコートの銀座
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 法被あるいは半被と書いてハッピと読む。日本語だ。下級武士が多く着用していたという。その様子はひとつの典型だったのではないか。裾の短い上着だ。胸紐はなく広袖で、ただはおればそれでよかった。  太平洋戦争に大敗した日本がま…
2020.4.24
古書店で『映画の友』を買い集める
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『映画の友』という雑誌があることは、子供の頃から知っていた。自分ひとりで書店に入るようになってからだから、子供とは言ってもすでに十歳は越えていただろう。その頃に『映画の友』は刊行されていたかどうか。子供の頃の記憶をいまた…
2020.4.23
ほんの一瞬がポートレートとして後世に残る
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 リチャード・フォードの『ワイルドライフ』は買ってあった。探したらすぐに見つかった。一九九一年にロンドンで刊行された、フラミンゴというペイパーバック・シリーズのうちの一冊だ。ほかにさらに二冊あった。買ったからには読もうと…
2020.4.22
タイプライターで原稿を書くとき
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 写真に撮られたアーネスト・ヘミングウェイは何点も見た。すべて記憶は曖昧だが、一点だけいまでもはっきり覚えている写真がある。ハヴァナの自宅で撮影された彼のうしろ姿の全身だ。  壁に寄せて小さな四角いテーブルがあり、その上…
2020.4.21
あの道がそう言った
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白く輝く雲へ  まだ梅雨だがその日は、梅雨明けの初日のように、素晴らしい晴天だった。小田急線の上りひと駅の下北沢で井の頭線に乗り換えて渋谷へ。朝のラッシュアワーの地下鉄銀座線浅草行きのプラットフォームでは、人々が三列にな…
2020.4.20
身辺に猫を増やしたい
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 前足をそろえて体をのばし、おそらくミルクをくれた人を、大きな目を見開いて、賢そうに見上げているほうの猫は、高さが六センチ五ミリだ。白と淡いオレンジ色の毛なみは、足先が見事に白であることによって、引き締まっている。もうひ…
2020.4.17
僕の日本語がなぜつうじるのか
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 アメリカの爆撃機による東京の空爆を逃れて、山口県の岩国にいた僕は、一九四五年八月六日の朝、友人の家から自宅へ帰るため、ひとりで外を歩いていた。広島に投下された原爆の閃光を、当時五歳の僕は、全身で受けとめるかのように、う…
2020.4.16
僕の父親はDadだった
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1  自分のことをDadと呼べ、と父親がはっきりと僕に言ったときのことを、遠い思い出ではあるけれど、いまでも僕は覚えている。戦後すぐのことだった。当時の僕は五歳ないしは六歳で、ちょうど物心がついた年齢だった。  自分の父…
2020.4.15
チェックアウトはいつでも出来る
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 一九七一年にリンダ・ロンシュタットのバンドとして彼女とツアーに出ていたとき、自分たちのバンドを作ろうではないか、という意見で四人はまとまった。グレン・フライ。ドン・ヘンリー。バーニー・リードン。ランディ・マイズナー。マ…
2020.4.15
エルヴィスから始まった
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『エルヴィスから始まった』(『ぼくはプレスリーが大好き』改題)を電子書籍として無償公開しています。縦書き版で全文お読みいただけます。 目次 — 1 ミシシッピー州東テュペロ 2 心が爆発する 3 トータルな体…