981編公開中。 今を映す手鏡のように
片岡義男エッセイ・コレクション『彼の後輪が滑った』 の一覧
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2016.9.11
彼の後輪が滑った──8(夏)
 夏の終わり、雨のあがった午後おそく、停めておいたぼくのオートバイのすぐかたわらに、きれいな丸い水たまりが出来ていた。直径は、七メートルほどもあっただろうか。  オートバイのわきに立って、ぼくはその水たまりを見た。風が止…
2016.9.2
彼の後輪が滑った──7(夏)
 その高速国道の、そのあたりの中央分離帯は、丈が低い。オートバイだと、分離帯を 越えて反対側の車線をのぞきこむようにして走ることが出来る。  右への大きなカーヴを、ぼくは時速百キロで通過していきつつあった。反対側の車線の…
2016.8.22
彼の後輪が滑った──6(夏)
 真夏の夜おそく、国道をぼくはオートバイで走った。月も星もない、暗い夜だった。街道の両側は畑であり、民家はなかった。ところどころ、思い出したように、街灯と照明灯の中間のような明かりが立っていた。  一台の長距離輸送トラッ…
2016.8.12
彼の後輪が滑った──5(夏)
 真夏のかんかん照りの太陽の下を、ぼくはオートバイでかいくぐっていく。エンジンの周囲を経由してくる風の熱を、両脚に感じる。風の通る経路は、きまっているのだろうか。ぼくが左にリーンすると、熱い風は右の脚により強く感じる。そ…
2016.7.26
彼の後輪が滑った──4(夏)
 彼女は、オートバイでひとり、旅に出る。一日に走る距離は、それまでの経験から判断してきめる。そのときの天候によっても、季節によっても、あるいは、自分の気持ちによっても、一日に走る距離は、微妙にちがってくる。  充分に走り…
2016.5.25
故郷へ帰りたい
 高速道路にあがると、都会の匂いがいっそう強く全身に感じられた。  初夏の快晴の日だ。だが、都会は薄黄色いスモッグにおおわれていた。せっかくの青空は、そのスモッグにさえぎられ、頭上のほんのせまい部分がうっすらと青いだけだ…
2016.4.29
お月さまはベルベット
 五月のゴールデン・ウィークがはじまるまえの日に、友人が遊びにきた。友人は、オートバイで、やってきた。たまたま庭に出ていたぼくは、下の私道に入りこんでくる彼のオートバイの排気音を聴いた。排気音は、ぼくの家の階段の下で、と…
2016.4.10
彼の後輪が滑った──2(春)
 不用意にも、そしてぶざまにも、ぼくは転倒する。あたりに人はいない。自動車も走っていない。ぼくひとりだけだ。ひとりで、ぼくは、オートバイで転倒した。  ほうり出され、ぼくは転がっていく。転がるほかに、方法はない。転がりな…
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