981編公開中。 今を映す手鏡のように
エッセイ・コレクション の一覧
2016.8.12
彼の後輪が滑った──5(夏)
 真夏のかんかん照りの太陽の下を、ぼくはオートバイでかいくぐっていく。エンジンの周囲を経由してくる風の熱を、両脚に感じる。風の通る経路は、きまっているのだろうか。ぼくが左にリーンすると、熱い風は右の脚により強く感じる。そ…
2016.7.26
彼の後輪が滑った──4(夏)
 彼女は、オートバイでひとり、旅に出る。一日に走る距離は、それまでの経験から判断してきめる。そのときの天候によっても、季節によっても、あるいは、自分の気持ちによっても、一日に走る距離は、微妙にちがってくる。  充分に走り…
2016.6.26
トリップ・カウンター・ブルースだってよ
1  エンジンをかけるため、路面が硬くて平坦なところへ、バイクを押し出していく。サイドスタンドをあげたとたんに、バイクの重さを全身に感じる。すさまじい重さだ。  かすかなダウングレードを、うしろむきに降りていく。生ゴムの…
2016.6.17
ジェームズ・ディーンには雨の日が似合う
■ さまざまな本について、再び話を聞きたいですね。あれや、これや、きわめてランダムに。たとえば、写真集とか*。  しばらくまえに『ヴォーグ』の書評で見てすぐに買ったのですが、『性的依存関係のバラッド』というタイトルの写真…
2016.6.11
美しい謎の霧子はどこへ消えたのか
 霧子は完璧だった。彼女自身にとって、そして彼女の相手となる人にとっても、まったく負担にならない性質の、たいへんな美貌だった。控えめでもの静かで、冷静そうな雰囲気は、頭やセンスの良さの当然の反映だったにちがいない。姿は素…
2016.6.9
雨の夜のドライ・ジン
 ドライ・ジンを飲んだのがいけなかった。しかも、夜中の二時だ。こんな時間まで起きていることは、ぼくの日常生活のなかには、あまりない。そして、夜中の二時に、室温の、したがってほんのりと生あたたかい感じのするドライ・ジンをス…
2016.6.8
風に吹かれて謎になる
 僕はジョルジョ・デ・キリコの絵がたいへんに好きだ。彼の人物画や静物画にはほとんどなにも感じないけれど、謎に満ちた抽象的な数多くの絵は、いくら見ても飽きることがない。  謎と言えば、彼の絵のなかで僕にとって最大の謎は、塔…
2016.6.6
雨が、ぼくにオードリー・フラックの画集を開かせた
 窓の外にいま午後がある。その午後は、いっぱいに雨を持っている。梅雨の雨だ。今年は、長くて冷たい梅雨だという。なるほど、いまはたしかに肌寒い。  雨を見ながら、ふと考えた。雨は不思議だ。  もしいま雨が降っていなかったな…
2016.6.5
雨と霧と雲と
 彼は一年にすくなくとも一度は、オートバイで雨のなかを走り、ずぶ濡れになりたいと感じていて、ほとんどいつも、その感じているとおりにしている。春おそくから夏の終わりまでの季節にかぎられてくるけれども、どしゃ降りの雨のなかで…
2016.6.3
ハイウエイのかたわらに立つ、巨大なドーナツや恐竜
 世界最大のマカロニ、と呼ばれている建造物のことを、アメリカの友人から聞かされたのを僕はいま思い出している。  どこだったか場所は忘れたが、ハイウエイ沿いのガス・ステーションのすぐかたわらに、その世界最大のマカロニは、ご…
2016.6.1
マリリン・モンローの唇が、いまも語ること
 イーヴ・アーノルドの写真集『マリリン・モンロー』のサブタイトルは、「アン・アプリーシエイション」という。このサブ・タイトルは、うれしい。メモワールでもなく、未公開写真集でもなく「アン・アプリーシエイション」なのだ。なぜ…
2016.5.25
故郷へ帰りたい
 高速道路にあがると、都会の匂いがいっそう強く全身に感じられた。  初夏の快晴の日だ。だが、都会は薄黄色いスモッグにおおわれていた。せっかくの青空は、そのスモッグにさえぎられ、頭上のほんのせまい部分がうっすらと青いだけだ…