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評論・エッセイ

深夜の地獄めぐり

 深夜の東京の、主として高速道路をオートバイで走りまわることを、彼は地獄めぐりと呼んでいる。なぜ、深夜に、地獄をめぐるのか。
 彼の言い草は、こうだった。
「夜中なら道路に車がつかえてないから、事故のとき救急車も早く来てくれるだろうと思って」
 深夜に自動車がすくないのは、たしかだ。車がすくなければ、オートバイで走りやすくもあるだろう。だが、彼の言い草の真意は、そこにはないはずだ。
 深夜は、照明とそれに対立する暗さだけの世界だ。この世界の中で、ひときわ、きわだってくるものがある…

底本:片岡義男エッセイ・コレクション『彼の後輪が滑った』太田出版 1996年
『アップル・サイダーと彼女』角川文庫 1979年所収

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